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第6話

安達が、好き。 そうだよ、俺は安達が好きなんだ。 今まであんなに訝しんでいたのが嘘のように素直に認められる。 きっと憑き物が落ちたような顔をしているのだろう、俺の表情を見た母親が「分かった?」と尋ねてきた。 「分かった。」 俺の答えに満足そうに頷いた母さんは、カップに一口口を付けて微笑む。 「世の中の人が何て言おうと、母さんも父さんも温人に好きな人が出来て凄く嬉しい。だから、大切にしなさいね。」 なんていうかとても母親らしさを感じて途端に恥ずかしさを覚えた俺は、カモミールティーを楽しむ母さんに小さく感謝を告げて、シャワーを浴びに行った。 ――――――― ―――― ― 風呂上りに水を一杯飲み、自分の部屋に入る。 頭の後ろで手を組んでベッドに寝転ぶと、天井がスクリーンのように安達を映し出した。 栗毛色の柔らかくて細い髪。長い睫毛に縁どられた目はぱっちりと大きく、鼻は小ぶり。頬はほんのり色づいていて、口は幸せそうに弧を描いている。 いつの間にか鮮明に焼き付いてしまった安達の笑顔。 これを見る度に鉄仮面だと言われる俺の口角が少し上がるんだ。 これが、好きってことなんだろう。 好き、と思うたびにお腹の奥の方がじんわり温かくなる。 会いたい、と思うたびに胸の奥の方がじんわり絞めつけられる。 いつまでだって一緒にいたい、なるべく長い間一緒にいたい。そんな生まれて初めての感覚。 これが、恋をするってことなんだろう。 あぁ、俺が誰かを好きになるなんて想像もしていなかった。 ふわふわと浮ついた状態のまま、体を起こす。 簡素で特徴のない俺の部屋。 好き嫌いが極端に薄くて執着心が無いから、必要最低限のものしかない。 そんな来るもの拒まず去るもの追わずだった俺が、離れてほしくないと思っている。 他人は他人、自分は自分で生きてきたのに、関わっていたいと思っている。 気が付けば安達を見ていて、小さな頭に手が伸びて、笑ってくれると心が喜ぶ。 泣かせたくなくて、独りで悩まないでほしくて、手を貸したくなる。 以前の自分とは随分変わってしまったけれど、これはこれで悪い気はしない。 寧ろやっと人間になれたような気すらしてくる。 そんな取り留めも無いことを考えているうちに、一晩明けてしまったらしい。 窓から入ってきた朝陽が俺の部屋を染め上げていく。 人生で一番清々しく見える早朝の空は、新しい世界への入口に見えて心に羽でも生えてしまいそうだ。 安達が好き。 早く会いたいな。 俺は柄にもなく早く時が進むよう神様に祈った。

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