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第7話
同じ制服を着た奴らと共に、駅から学校までの一本道をゾロゾロと歩いていく。
もう二年間も変わっていない登校の風景だって、今日は少し彩やかに見える。
校門が見えてきたころ、ドンっと後ろから何かが飛びついてきた。
安達かもしれない、と心が浮ついていると、飛びついてきた奴が背後から横へ回ってくる。
「漣、おはよー!」
「…………はぁ。」
そこにいたのは目当ての人物では無く、瀧藤。
思わず漏れ出た溜息に噛みつくように騒いでくる瀧藤をあしらいながら、止まっていた歩みを再開する。
「だから、ごめんって。」
「ジュース一本で許してやろう!」
「はいはい、ジュースね。」
結局、安達には会えず終いで教室に着いてしまった。
眠気と戦うか黒板の文字を写すかだった授業中だって、ぼうっと安達のことを考えていると気が付けば四時間目も終わる頃だ。
いつになく俊敏にチャイムの音に反応して、弁当箱を手にいそいそと教室を出る。
後ろから瀧藤の声が聞こえるが無視だ無視。
走らない、けれどなるべく早歩きでいつもの空き教室へ向かった。
「…………いた。」
「あ、先輩。」
扉を開けると、教室の中央付近で体育座りをしている安達を見つけた。
顔だけで振り返った安達とバッチリ目が合い、花に群がるミツバチのようにふらふらと吸い寄せられる。
窓から差し込んだ淡い光が降り注いでいているだけなのに、まるで安達が光っているみたいに見える。
俺は安達から一瞬たりとも目を逸らせないまま、小さい体を更に小さく畳んでいるその前に腰を下ろして腕を広げた。
「はい。」
「………えっと?」
意味が伝わらなかったのかこてん、と首を傾げる安達。
可愛い。凄く可愛い。
腕を広げたままおいでと言うと白い肌が瞬く間に赤く染まっていく。
駄目だ、可愛い。物凄く可愛い。
好き、という気持ちを自覚した上で見る実物の安達は思った以上の破壊力だ。
「せせせ、先輩今日変です!」
正直あんまり待っていられない。
キャンキャン吠えているのですら可愛いなぁとしか思えない俺は、じりじりと安達ににじり寄っていく。
「最近ずっとおかしかったけど、今日はそれ以上に変です!!」
まるで拒否するかのように両手を前に突き出してくる安達。
でも本気で嫌がっているようには見えなくて、そのまま壁際まで追い込んだ。
「ちょっ、待って待って待って下さい!!!」
「待たない。」
「!!」
淡々と答えると、赤くなった顔を更に真っ赤に染めた安達が息をのんで動きを止めた。
俺はここぞとばかりに引き寄せて腕の中に閉じ込める。
「………つかまえた。」
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