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第8話
こちらを向いて縮こまっていた安達を覆い隠すように閉じ込める。
俺の身体より一回り小さいコレが腕の中にすっぽりと収まり、世界から安達を隔離しているような状況に、言い知れぬ満足感が湧いてくる。
頭をずらし細い首元に鼻先を近づけると、安達がもぞもぞと動き出した。
それを制するようにグッと強く抱き込む。
「うぅーーーー!」
「……いや?」
「嫌じゃないですけどっ!!」
何やら抗議されてはいるが嫌じゃないのなら構いやしない。
全て聞こえないふりをして安達の髪を透いたり、形のいい頭を撫でたりを続けていると、諦めたのか静かになった。
すごく、気分がいい。
少しだけ肌寒い外気が隙間から入ってくる度、腕の中の熱が大切なものに感じる。
柔らかな光が差す中、俺と安達の呼吸以外の雑音が無いこの時間を、じっくり堪能しよう。
そう思った矢先、安達の腹が鳴った。
「「あ。」」
頑なに顔を上げなかった安達が、思わずといった風に見上げてくる。
小柄なサイズの割に健全な男子高校生らしく良く鳴く腹の虫が可愛くて小さく笑うと、安達は気恥ずかしそうにまた俯いてしまう。
そんなところも可愛くて、くしゃり、頭を撫でた。
「弁当、食べるか。」
「………はい。」
大人しい安達を膝の上に乗せて包みを解いていると、丁度良く瀧藤もやってきた。
俺が置いて行ったことが不満なのか、ぶーぶー文句を言ってくる瀧藤を座らせて三人で手を合わせる。
「すっごい速さで出ていくから何事かと思ったら、二人で食べようとしてるし!」
「ごめんって。」
「ジュースも奢ってもらってないし!」
「はいはい、ジュースの代わりにこれやるから。」
瀧藤の口の中へ出汁巻卵を放り込む。
コイツが我が家の出汁巻にご執心なのは、よく知っているからこれで満足するだろう。
餌付けした本人が言うのもなんだが、この程度で美味い美味いと喜ぶ瀧藤は控えめに言っても小学生にしか見えない。
生暖かい目で瀧藤を見ていると、どうしてジュースを奢る話になったのかと安達に聞かれた。
「今日の朝、漣におはよーって言ったら、溜息つかれたんだよ。」
「えぇ!漣先輩が!?」
「そうそう。失礼だろ!」
「いやだって、安達かと思ったら瀧藤だったからガッカリしたんだよ。」
確かに挨拶されて溜息を返す奴は失礼だ。
俺だって普段は四徹目であろうとちゃんと返すけれど、今朝は昨夜気付いた気持ちで浮ついていたから、気を削がれてついつい溜息が出た。
本当は紛らわしいことをするなと文句を言いたいぐらいだったけど、流石にそれは自重したんだ。
なんて、考えていたらいつの間にか騒がしさが消えている。
急に黙りこくった二人は俯いたまま微動だにしない。
「あのー、どうかした?」
居心地のさに耐えきれず声を出した瞬間、風のような速さで安達が走り去った。
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