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第9話
二日連続で逃げられた衝撃に一文字も言葉を発せないでいると、依然俯いたままだった瀧藤から長い息が吐き出された。
体中の毒素を全部吐ききるくらいの溜息を終えた瀧藤が、ぐわっと顔を上げる。
「正座。」
「、え。」
「せ、い、ざ!」
如何にも怒ってますという表情。その勢いに負けた俺は、いそいそと座りなおす。
俺が体勢を整えると、瀧藤は俺の前で仁王立ちすると腰に手を当てた。
「安達が好きだって自覚したんだな?」
首肯する。
「じゃあ、告白はした?」
首を振る。
「………っはぁーーーーー。」
潔く否定すると、頭痛を我慢するかのように額に手を添えた瀧藤。
ぼーっとそれを見ていると、ボソリと瀧藤が呟いた。
「うん、いやお前に悪気が無いのは分かってるんだけどさ………。」
なんとなく、嘆かれている気がする。
そして凄く、駄目な子扱いされている気がする。
けれど、何故瀧藤がそう思ったのかが分からず考えていると、やれやれとでもいうように瀧藤がまた溜息をついた。
「漣さ、安達がお前のこと好きなのは分かってるだろ?で、お前も好きだって気づいたんだろ?これは一般的に両想いっていわれるわけだ。」
「ん。それは分かる。」
「そうなったら、普通は告白して恋人同士になるんだよ。」
あっそうか、忘れてた。
でもそれと安達の挙動不審に何の関係があるのか、見当もつかない。
「昨日も言ったけど、お前が安達を好きだっていう気持ちは駄々洩れなの。目線とか表情とか触り方とかが一々甘ったるいんだよ。メープルシロップ増し増しのパンケーキかってくらい。」
「だだもれ。」
俺の気持ちがスプリンクラーのように撒き散らされているのだとしたら、関係無い人は確かに迷惑かもしれない。
「で、それを安達の方から見るとだな。何度も告白してはフラれてる相手が、最近になってどんどん意味ありげに見てくる。でも好きとは言ってこない。でも自分が距離を取ると詰めてくる。でも付き合ってとも言ってこない。」
「うん。」
「これを世間では生殺しと言います。」
生殺し。
決着をつけないで、相手が困るような中途半端な状態にしておくこと。
決して好きだと言葉にされないまま、甘い空気を纏った俺に捕まえられている。
嫌われてはいない、けれど好いているかどうかは分からない。
俺は”嫌いじゃない”とは言っているけど”好き”とは言ってないから。
気持ちを伝える手段は何も言葉だけではない。
でも言ってくれなきゃ信じられないと、ついこの間安達に言われたばかりなんだ。
プラスの感情とマイナスの感情の濁流に呑まれていく安達が、ぼんやりと見える。
「もしかして俺、相当酷いことしてる?」
「してる。」
大真面目な顔で頷く瀧藤に、やっと自分のしでかしたことに気付いた。
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