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第2話

ことごとく恋心を理解できない俺に科されたのは、春休みお泊りの刑。 その場で母親に連絡を取ったら豪速球で了承され、二泊三日、安達は我が家に泊まることになった。 そうして春休みが始まって一週間が経った今日、俺は家の最寄り駅まで安達を迎えにきていた。 「せんぱーーーーい!!」 改札を走り抜けて来た安達が両手を広げて抱きついてくる。 泊まりの荷物の分だけ重い衝撃を受け止め、胸元にぐりぐり擦り付けてくる頭を撫でてやると、安達は顔を上げてふにゃりと笑いかけてくる。 「先輩だぁー。」 「はいはい、先輩ですよー。ってそんなに感慨深く言われても………ちゃんと連絡はとってただろ?」 そう。 俺なりに、俺なりに恋人として接しようと、普段は放ったらかしのスマホも安達からの連絡だけは通知するように設定し直したんだ。 だから、冬休みの時のように何日も返信しないという失敗はしてないはず。 「文章より音声より、本物の先輩がいいんです!」 そう言って幸せそうに笑う姿がなんだかとても綺麗に見えて、ぎゅっと安達を抱きしめた。 ―――――― ――― ― 「こんにちは妙子さん!お久しぶりです。」 「あらー、累君!こんにちは〜。」 「三日間お世話になります!!」 「やだーー!いいのよいいのよ!累君はもううちの子なんだから!!!」 ぺこりとお辞儀する安達に、ご飯は食べたか、腹は空いてないかと母さんが母性を爆発させた。 年上に好かれやすい安達からすれば躱すのは容易いのかもしれないが、心なしかヘルプを要求する視線を感じる。 ちょっと待ってろと安達にアイコンタクトし、冷蔵庫からある物を取り出した。 「ほら母さん。今日は抹茶プリン食べるんだろ。」 「あっ!そうだったそうだった。抹茶プリンには緑茶よねー。累君と温人もお茶いる~?」 「ん。ちょーだい。」 「僕も、お願いします!」 昼過ぎのこの時間帯に、毎日一つコンビニスイーツを食すのが母のルーティン。 今日の分はまだ食べて無くて良かった。 一瞬で甘味に気が向いた母さんが完璧なおやつタイムのために準備を始めたので、ここぞとばかりにソファに移動する。 「ごめんなー。母さん安達が来るって朝から張り切っててさ。」 「あはは、ちょっと驚いたけど全然大丈夫ですよ。親戚のおばさん?ってこんな感じなんですかねー。」 寂しそうな目で微笑んだ安達には、両親はおろか親戚もいない。 ああやってちょっかいをかけられるのも、初めてなのかもしれない。 「累君?おばさんじゃなくて、お姉さん、ね?」 だからこうやって ”おばさん” に過剰反応されるのも、初めてなんだろうなぁ……。 背もたれ部分からぬっと顔を出した母さんに、コクコクと壊れた人形のように頷いている安達。 そんな安達が家族を当たり前に受け入れられるようにしてやりたいなと思いながら、怒れるお姉さんを宥めにかかった。

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