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第10話

「俺とお前って、付き合っては無いよな?」 ぴしり、空気が凍った。 風の音が聞こえる程の静寂。 そして、 「…………そう、ですね。」 安達の目から零れ落ちる涙。 「そうで、す。せ、ぱいと、僕はっ…………っ付き合ってません!!!!」 ボロボロと涙を零す安達。回していた腕をそっと外し、所在なさげに彷徨わせている。そして離れたくないという小さな意思表示なのか、俺の服をそっとつまむ。 どうにも泣き止む様子が無いので、よしよしと頭を撫でてやる。すると、何故か流れる液体の勢いが増した。 「うぅぅぅぅ~!!!!」 「え、なんで更に泣くの?」 「せんぱいのばかぁぁぁぁ!!」 「え、なんで悪口?」 どうにも人の機微を感じ取れない俺には、どうすれば安達が泣き止むのかが分からない。というかそもそも、何で泣いているかも分からないんだ。 「お前なぁ、そんなに泣いてたら目が溶けるよ。」 「だって、っだって!ぅぇぇえええ~!!!」 「あぁ、もう。…………いいや、好きなだけ泣け。」 きっとその方がスッキリするだろう。 ーーーーーーー ーーーー ー そうして、安達が泣き止んだのは十数分後。その間俺達は同じ体勢のまま。控えめにシャツを握り、戸惑いつつ頭を撫でてやり、二人とも昼ご飯を食べていないことに気づき、腹の虫が同時に鳴って思わず笑ってしまったり。 「ぐすっ、ふへへっ!」 「はははっ、あ、やっと泣き止んだか。」 安達の目は赤く、目元は若干腫れていたが、なんとか涙は止まったようだ。まだ時折、瞳が揺らいでいるがその度に、両頬を軽くたたいている。お前は力士かってツッコみたくなったけど、流石に自重した。 「あのね、先輩。僕、僕先輩の事大好きなんです。」 「ん。」 「でも、先輩は僕のこと…。」 さっきとはまた少し違う静けさに、パチンという音が響く。 「僕のこと、好きじゃ、ないんでしょう?」 深く息を吸い、必死に涙を我慢していますという表情の安達。偶に視線が逸れるのは、聞きたくないけど、聞かなくてはいけないという葛藤の表れか。 人の気持ちを考えるのが苦手な俺にでもわかる結末。きっと安達はまた泣くんだろうな、と思いながらも俺は口を開く。 「うん。お前に対して、恋愛感情は一切持ってない。」 「…………。」 「安達?大丈夫か?」 イエスと言った俺に、想像通り顔を歪めた安達は、俺の言葉を最後まで聞くと驚いた表情に変わった。まるで、玉砕覚悟の告白が実ったようなその驚き方に首を捻っていると、がばっという音と共に抱き着かれる。 「っもう!先輩、大好き!!!」 おいおい、ちょっと待て、なんで告白成功の雰囲気になってるんだ!!!

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