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第8話
放課後、ゲス笑顔先輩に言われた通り体育倉庫へ向かう。
とはいえ、普段なら終礼後直ぐに帰る俺が帰ろうとしなかったのを、不思議に思った瀧藤に質問攻めされ、十数分くらい経っている。
遅いと怒られやしないだろうか、なんて。昼休憩の時も今も、俺には緊張感のカケラもない。それがそもそもの原因なのではないか。そんなことを考えつつ、体育倉庫へたどり着いた。
「っーー!ーぁーー!!」
「ーーぇ。ーゎぃーー!」
「ぅーーーー!!」
「んぁ~~~!!!ゃーーぃっーーーー‼︎‼︎」
「……………はぁー。」
これは、面倒だと長い長い溜息を吐いた。
この体育倉庫は体育祭の準備の時ぐらいにしか人が寄り付かない。今も俺以外には誰もいない。そんな静かな場所だからか、分厚いはずの体育倉庫の壁から、声が漏れ出ている。
どう聞いても昼間の三人と、安達の声だ。興奮冷めやらぬ男の声に混じる喘ぎ声。これは、そういうことをしているんだろう。
本当に、面倒なことになった。
とりあえず、扉に近づき声をかける。
「あ!漣くん?どーぞどーぞ、入って~!」
「あ、はい。失礼します。
「―――っ!!~~~~~!!!!!」
「わ!累 君は大人しくしててね~!!」
コンクリートの壁に囲まれた薄暗い部屋。棒倒し用の棒や、玉入れ用の籠など大きなものは壁側に寄せられ、埃っぽいマットが中央に置かれている。
そしてその上に、最早ほとんど裸の安達が寝かされていた。体中に鬱血痕と白濁液が散らばり、事後の雰囲気を醸し出している。安達は俺が来たことに驚いているのか、目に涙を浮かべたまま固まっていた。
「昼休憩にも聞いたけどさ、漣君は累君と付き合ってないんだよね?」
ゲス笑顔先輩の言葉に安達の目が見開かれ、ギギギギッと音がするくらいゆっくりと俺に視線が合わされた。俺がこの状況で答えを出せば、きっと安達は傷つくんだろう。そんなことは分かっているが、俺は正直に話す。
安達はまるでそれが分かっているかのように悲しそうに微笑んだ。
「何度も言わせないでください。」
零れた涙が安達の頬を伝っていく。それでも安達は俺から目を逸らさない。
「俺と安達は付き合ってなんかいません。」
俺が言った言葉にニヤケが止まらない先輩。ただじっと安達へ熱視線を送る先輩。目をつぶり、堂々としている先輩。この異様な空間の中、決定的な言葉を聞いてなお安達の視線はぶれることなく俺へ注がれている。
「ただの抱き枕と、その使用者です。」
だからこそ俺も一度たりとも視線は逸らさなかった。
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