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第10話

"俺の物を大切にすることは間違っていますか?" 「あ゛ーーーーー、やっちゃった。」 やっちゃった。完全に失敗したわ、俺。 先輩達の消えた体育倉庫は、コンクリートの建物だからか一気に冷えてくる。俺は去り際の先輩達の顔を思い出して、また一つ身震いした。 普段頭を使わない人が稀に考えた時に起こる、突拍子も無い思い付き。正に先程の俺の発言のことである。 あんなに争い事が面倒だとボヤいていた俺が、何を思ったのか、はっきりと所有権を主張するだなんて。火に油を注ぎまくったようなもんじゃないか。 「っはぁー。あーあ、俺明日から学校来れるかな。」 ハハッと乾いた笑いが響く。無理に笑っても虚しいだけだ。 少し現実に打ちひしがれていると、っくしゅん、と小さなくしゃみの音が聞こえてきた。そういえば、と色んな液体でぐちゃぐちゃになったマットの方を見る。 「………っくしゅん、……………………っくしゅん!!」 「…………………触りたくない。けど、放っておいたら風邪引くよな………。」 他人の出した分泌液など触れたくは無いが、安達に風邪を引かせる方がファンから殺されそうだ。仕方ないか、と腰を上げ安達の元へのろのろと歩く。 近づけばいっそう臭うなんとも言えない臭いに顔を顰めつつブレザーとシャツを脱ぎ、脱いだシャツで安達の身体を拭ってやる。 「……ん、っふ………っくしゅん…あ、ん……。」 「………喘ぐかくしゃみかどっちかにしろ。」 安達に意識は無いが、アレだけのことの後で身体がまだ敏感なのだろう。肌に触れるたびにか細い声が漏れる。 ドロドロになったシャツは捨てるとして、安達の制服は………あの人達、服にまで擦り付けるって、引くわ。 視界の端にマット宜しく沢山の液体が染み込んだ制服を捉える。あれも、もう使い物にならないだろう。 着せるものがないので俺の体操服でも着せようと思い、ブレザーを被せた安達を横抱きにし、倉庫から出る。 誰かに見つかるのではないかとヒヤヒヤしたが、下校時間も間近な校舎裏には誰もいない。無事、教室に辿り着き床にブレザーを敷き、一旦そこに寝かせた。 パンツが無いことに今更気づくが、無い物は仕方がない。ノーパンのまま体操服を着せ、まだ意識の戻らない安達を再び抱え、俺の家へと向かう。 「…………もやしっ子の俺でも余裕で持てるって、お前、ご飯食べてるの?」 「……………ぁあ、っは、ん!」 「…………………はぁ〜〜。」 下校時間と帰宅ラッシュの隙間の時間帯。今、人が少ないことが今日の唯一の救いだ。

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