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第12話
明らかに様子の違う安達に戸惑いつつも、腕を引いて風呂場へと連れてきた。
「あの緑の透明な方がシャンプーで、半透明の方はリンスな。」
「……はい。」
「で、石鹸はここ。シャワーはわかるだろ。」
「…………。」
小さい頭を僅かに動かし頷く安達。心配だが、一応返事はしているので洗面所から出て行こうとすると、くっと服が引っ張られる。
視線を落とすと、細い指が力一杯俺の服を握りしめていた。
「……、安達?お前、風呂入るんだろ?」
一つ、頷く。
「だったらその手、離さないと。」
数秒止まって、ゆっくりと頷く。
暫く握っていたが徐々に力が抜け、最後にはすとんと落ちた。そしてまたギュッと力を込めて拳を作る。
「じゃあ、俺出て行くよ。」
微動だにしないまま暗い瞳だけが俺を追って動く。扉の前でもう一度振り返り、ドアノブに手をかけたその時。
「!」
「………………ひとり、やだ。」
腰辺りに細い腕が周り、背中の下の方には頭の重みを感じる。ひんやりと冷たい安達が俺に抱きついてきた。
ぎゅうぎゅうと腕に力を込め、グリグリと頭を擦り付けてくる。そうして長い沈黙の後に、絞り出したようにそう言ったのだ。
いつもなら絶対に断る。
何が嬉しくて男同士で風呂なんかに入らなくてはいけないんだ。五歳児でもあるまいし。それに安達は俺のことが好きで、今までに二度も襲われている。
でも、今日は。この時だけは、俺は断る選択肢すら考えられなかった。
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体を温める目的でもあった入浴は、長風呂になってしまい喉が渇いた。2人分のコップに水を注ぎ一つを安達に渡す。十分に温まった手がコップを受け取った。
疚しいことなど何もなく、というか俺は安達の肌に触れてもいない。お互い自分で自分の体を洗い、狭い湯船の両端に浸かり出てきたわけだ。
体が温まったからか、どことなく安達の表情もマシに見える。他に着せるものが無かったので、俺の中学の時の体操服を着ている安達。それでもブカブカだ。
「お腹、空いただろ?炒飯あるよ。」
「ん。たべる。」
温め直した炒飯を机の上に置くと、しっかりと両手を合わせた安達がいただきますと呟く。一口は小さいが休みなく動き続ける手は、完食するまで止まらなかった。
「美味しかった?」
コクコク、頷く。腹が満たされたからか、起きた当初より随分マシな顔付きになった。
「じゃ、俺の部屋行くか。」
そう言って席を立つとピタリと安達が引っ付いてくる。まるで雛鳥のように後ろをついて歩く姿は、ファンなら鼻血噴出ものなのでは?だなんて考えている俺も、結構可愛いと思っていたりする。
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