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第13話

眠れないこと以外に特徴のない俺の部屋は、とてもシンプルだ。勉強机に小さな本棚、殆ど服の無いクローゼットにシングルベッド。あとは小さなテーブルがあるくらい。 とりあえず、持ってきたコーヒーとココアをテーブルに置き、地べたに座る。フローリングが思っていたより冷たくて、ぶるるっと身震いしていると、ふぁさっと肩に何かが掛かった。 「!!………布団、かけてくれたの?」 「…………先輩寒そうだったから。」 「俺よりお前の方が寒そうだわ。」 ほらこっち来い、と細い腕を掴み軽く引っ張る。胡座をかいた上に丁度収まった安達は、大きな目をパチパチとさせている。 湯冷めしないよう布団を被り、安達に覆い被さる。ぐっと腕を伸ばしてカップをとり、一口。いやぁ、至福の時ですな。 心地良い静寂。 二人の呼吸音と飲み物を啜る音。衣擦れの音やカップを置く明るい音。時計の秒針、微かに聞こえる隙間風ーーーそして、腕の中から、安達の匂い。 俺を唯一眠らせてくれる、薬のような毒のような匂い。自分でも気付かないうちにどんどん溺れそうな気がしてならない。まるで麻薬だ。 「………先輩。」 「ん?」 そんな静かな沈黙の中、ギリギリ聞き取れるくらいの声が聞こえた。いつの間にか回されていた腕に少しだけ力を込めて、不安そうに不安そうに、安達は口を開いた。 「…僕のこと、………嫌いになりましたか?」 ………………え?なんで? 俺が何も言わないからか、やっぱり嫌いですよね、と安達は目を伏せてしまう。 「いや、嫌いじゃないよ?」 「嘘だ。だって、先輩の目の前でっ、あんなにっ!!!」 「あーあー、はいはい、落ち着いて。」 「んぐっ!く、るしぃ…!!!」 一気に騒がしくなった口を手の平で抑える。もごもご反抗していたが、静かになったので手を離した。 「俺はね、安達が体を売っていることは元から知ってるだろ?」 「……はい。」 「だから今更現場見たくらいじゃ引かないよ。」 「………。」 「分かったか?」 「っ!!~~~~~~~!!!」 腕の中で暴れ出す安達を抱き込んで抑えると、いい匂いがぐっと強まり、強烈な眠気を感じる。ズルズルとベットに移動し、安達を抱き枕にし眠る体制に入る。すると、更に騒ぎが増した。 「ちょっと!先輩!!」 「うるさいなぁ。もう眠いの!俺は!!」 「学校以外で一緒に寝るのは契約違反です!!!」 「………二人とも黙ってたら、分かんないだろ。はい、お休み。」 「!!!ちょっ、せんぱーい!!!!」 結局その日、安達は俺の家へ泊った。これが初めてできた、俺達の秘密だ。

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