そうして50分後。 「ーーーーー」 「おーい、生きてるか？」 目の前に物言わぬ屍となった瀧藤が出来上がった。 「勝手に殺すな！」 「いっ！」 ポカポカと軽い拳を俺の腹に叩き込み、苛つきを表現している瀧藤。多分、人生で初めて真面目に数学の授業を受けたのではないだろうか。 鞄から弁当箱を抜き出す。背後から雄叫びが聞こえ、瀧藤がついてきていることを確認し、安達がいるであろう空き教室へ向かう。 めっきり冷え込んできた最近、昼飯の会場は屋上から空き教室へと変更されていた。勿論、瀧藤の許しも得ている。因みに場所提供は瀧藤で、こいつがサボる時の根城にしている教室だ。 「安達ー！昼飯食うぞー！！」 いつのまにか俺を追い越した瀧藤が扉を引く。中では小さな電気ストーブをつけ、毛布にくるまった安達がちょこんと座っている。 俺と目が合うと、にぱっと笑いこっちにかけてくる。 「せんぱーい！ぎゅ〜〜！」 「ん？ぎゅー。」 そのまま抱きついてきたのを抱き返し、俺より体温の高い小さな身体で暖をとる。 無視すんじゃねぇと安達に怒る瀧藤の声は、安達の耳にも入ってないのだろう。ギュウギュウ腕に力を入れ、俺の腹に顔を埋めている。 ストーブを囲んで三人で座り、瀧藤が一枚、俺と安達で一枚の毛布を肩からかける。手を合わせて食前の挨拶を済ませたら、待ちに待った昼飯だ。 「漣！出汁巻くれ、出汁巻！！」 「ん、あーん。」 「あ〜〜！」 何故か我が家の出汁巻が大好きな瀧藤か大きく口を開ける。俺は特に考える事もなく奴の口の中へ出汁巻を入れる………お？ 「んー！美味しいです！！」 「あっ、おい！何勝手に食ってんだよ！！」 目にも留まらぬ速さで箸から出汁巻を奪い取った安達。ニコニコと笑っているのは可愛いが、方やお怒りなさっている。 「はぁー？瀧藤先輩如きが先輩のあーんを頂けると思ってるんですか？」 「あぁ！！？なんだその言い方は！！仮にも後輩なんだぞ、お前！！」 俺には決して見せない蔑むような表情で煽る安達。珍しく口調が荒れっぱなしの瀧藤。普段頭を使わない二人、テスト期間で疲れていたのだと気づいたのは事が片付いた後。 「先輩後輩なんて関係ありません！先輩の出汁巻は僕のものです！！」 「ふざけんな！太古の昔から漣の出汁巻は俺のものだって決まってんだよ！！」 いや、俺のだから。 とは言えるわけもなく、なんとなく面倒くさい展開になりそうなので、急いで飯をかきこむ。 早食いは体に悪いらしいがこの際仕方がない。止まらない言い争いのおかげで嫌な予感は膨れ上がっている。早く立ち去ろうと腰を上げようとした瞬間。 二人が立ち上がった。