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第4話
仁王立ちで相手を睨みつける二人。
「だったら次のテストで決めようじゃないですか。」
「…………テストだと?」
怪訝そうな瀧藤に安達がニヤリと笑った。
「はい。学年順位が高い方が、先輩の出汁巻の権利をもらうっていう事でどうですか。」
「ふ〜ん。お前、中々良いこと言うじゃねぇーか。それで勝負だ!!!」
かくして、二人の男の命をかけた争いが始まったのである……………って、俺の出汁巻だからね。
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次の日の教室。なにやら朝から騒がしい。クラスメイトがある一角を囲んで驚きの形相を浮かべている。
関わったら面倒だと思うのだが、集まっている場所は俺の座席付近。今日は四徹目で体が怠く、一刻も早く座りたい俺は外側を囲んでるやつの肩を叩いた。
「おい、どうしたんだコレ。」
「あ!漣、良いところに来た!!」
「コイツなんか変なんだよ!」
「あ?」
コイツって誰だよ。何を言いたいのかよく分からないため、ぐっと背伸びをし中を覗くとそこには………。
「で、ここに4が入る。分かるか?」
「ん。じゃあ答えは12か?」
「そうだ!お前、やればできんじゃねーか!」
「おうよ!任せといて!!」
「………え、何これ。」
目の前の状況に脳が追いつかない。
俺の席に瀧藤が、瀧藤の席に鬼教師橘が座り、問題集を睨めっこしている。あの瀧藤が数学を教わっているという事実に慄いたクラスメイト達が集っていたらしい。
瀧藤も橘も集中しているらしく、俺に気づいていない。何が何だかよく分からないが、頑張っている邪魔をしては悪いと俺もミステリーサークルの輪に収まった。
その後も次々と輪が大きくなり、朝礼十分前には他クラスの奴まで集まってきた。
「瀧藤って、数学嫌いじゃなかった?」
「嫌いっていうか、生理的に受け付けてなかったな。」
「こりゃ今日は槍が降ってくるんじゃ!⁉︎」
「おい、保護者、あんなに言われてるけど良いのか?」
「半分は事実だから、いいんじゃない?」
「……………お前って薄情だよなぁ。」
確かに言いたい放題だが、そう言いたい気持ちも良くわかる。本人に聞こえていたいんだし、そのくらい良いだろと思うんだけど。
ていうか、俺は薄情だけど、アイツの保護者では無いから。ここ、凄く重要。
授業が始まってからも瀧藤のスイッチは切れず、一心にノートに書き殴り、分からない所は挙手して質問。殆どの教師は、完全に妖怪を見る目だ。
そして、瀧藤の変貌ぶりは瞬く間に広まり、休み時間の度にギャラリーは増え、ついには学年の壁をも超えていった。
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