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第8話
あ、頭が痛い……。
「あ、安達。お前って実は……」
「馬鹿なのか?」
「ぐっ!!!」
うん、まぁ、この有様じゃ言い返せないな。
ノートに走る赤い線。チェックばかりのそれは紛れもなく安達のものだ。
「僕、暗記系駄目なんです。」
「あー、そうみたいだな。」
「しかも、数学や物理もあんまり得意ではなくて…。」
「うん、むしろ苦手だよね。」
「お前そんなんで勝てるのかぁ~!!!」
うわぁ、楽しそうだ。自分より馬鹿な奴見つけて喜んでる小学生だ。
いつもならここまで言われて黙っていない安達だが、流石に差が歴然としているからか、大人しく言われ続けている。ちょっと可哀そうになってきた。
「ほら、瀧藤はさっき教えたところ自分でやってろ。安達は今から頑張ろう。」
「は~い!!」
「ぜんばいぃぃぃぃ。」
元気よく片手を上げる瀧藤。虐められて俺に泣きつく安達。虐めっ子の気を逸らし、虐められっ子の涙をティッシュで拭く俺。ここは幼稚園か。
「ほら、まずは日本史からするぞ。」
「あい。」
“問1 1600年、石田三成率いる西軍と徳川家率いる東軍の戦いを何という。”
「はい!」
「はい、安達君。」
「おけがはらの戦い!!」
「うん、なんか二つ混ざっちゃったね。」
桶狭間と関ヶ原が混同している安達にきっちり説明してやる。
“問2 1582年に起きた本能寺の変とは、誰が、誰の謀反によって亡くなったものか、答えよ。”
「明智光秀が、織田信長に裏切られて、死にました!!」
「逆だし、そんなにいい笑顔で死んだとか言わない。」
正解は皆様もお分かりかと思いますが、織田信長が、明智光秀に裏切られる、です。
どうやら安達は覚え方が雑なようだ。起きた事柄の名称と中身がバラバラになっていたり、似たようなものを区別できていなかったり。こういう人には、一からしっかり説明するに限る。
「よし、今からざっと安土桃山から江戸時代まで説明するから。ノート取ってみな。」
「はい!分かりました!!」
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ーーーー
ー
「で、き、た~!!!」
あれから一時間半かけて説明し、30分以上かけて問題集を解きなおした安達。ノートには沢山の赤丸が書かれている。花を飛ばしながら喜んでいるのが、なんだか可愛く見えて、ついつい頭を撫でてしまう。
「よくできました。」
「えへへ~!」
楽しそうに笑いながら定位置に座りに来た。ぎゅうぎゅう、ぐりぐり、にこにこ、えへへ。ご機嫌な安達に釣られて、俺の口角もゆるゆると上がってしまう。
「イチャつくなバカップル!」
…………バカップルではないことは確かだ。
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