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第11話
何とか踏みとどまり、今もなお力強く腕を掴んでいる小さな手へ目を向ける。力んで白くなった指先は、安達のものだ。
手から肘、腕、そして顔へと視線を動かすと、大粒の涙が頬を伝っていた。
瞬きもせず涙を流し続ける安達は、小さな小さな声で囁く。
「……ぃ………で。」
「ん?」
「嫌いにならないで!」
ぼろぼろと泣きながら、必死で乞う。
「僕のこと、嫌いにならないで!!」
涙交じりの消えそうな嘆願に、心臓の奥が掴まれるような感覚がする。
だがまぁ、大きな誤解をしているようだ。
「安達、俺は喉が渇いただけだ。」
「………へ?」
「だから、下に飲み物取りに行くだけだよ。」
しばらくして自分が誤解していたことが分かったのか、かぁぁっと顔が赤くなっている。安達は俺の腕を掴んでいた手を忙しなく動かし、わたわたとテンパっている。
控えめに言って凄く可愛い。
「ちょっ!先輩笑わないでくださいっ!!」
「ッいやだって、ッ、お前どんだけ、俺のこと好きなのっ。」
「ぁ~~~!もう!笑わないでくださいってば!!」
「どうせ気を引きたくて拗ねてただけなんだろ?」
「う、うぅ~~~、そうですけどぉ~~!」
キャンキャン吠える子犬に、腹がよじれるほど笑う。
羞恥が天元突破したのか、いつものように腹に顔を埋めだした安達。一頻り笑った俺はサラサラの栗毛色を撫でる。
指通りの良い髪はいつまで撫でても飽きない。仄かに匂うこれは、シャンプーだろうか。安達の匂いとは少し違うけど、これはこれで良い匂い。
そんなことを思っていると、がばりっと安達が剥がれた。
「先輩、俺のこと嫌いになってないですよね?」
しっかりと俺の目を見つめる瞳は、ほんの少しだけ揺れている。
さっきの会話で嫌われていないことは分かっているだろうが、明確な答えを欲しているようだ。
そんなところも可愛いだなんて思っているのに、嫌いになる筈もない。
ふ、と小さく笑い、徐々に安達へ顔を近づけていく俺。一瞬、目を見張り、ゆっくりと瞼を降ろす安達。
コツン。
「嫌いになってないよ。」
「~~~~~~~!!!」
声にならない声で、目を瞑ったまま悲鳴を上げる安達に、至近距離のまま微笑む。
くっついていた額を離し、軽く目の前の頭を叩く。
馬鹿だなぁ、俺のレアな笑顔見逃すなんて。
「じゃ、俺は飲み物取りに行くから。」
「俺も行きますっ!っていうか、何なんですかもう!!」
「えー、ちゃんと答えてあげたのになんで怒るかな。」
「あれは完全にキスする流れでしょ!?」
「いや、嫌いじゃないだけで別に好きなわけじゃないから。」
「酷いっ!!!」
狸寝入りがバレずに済み大きく深呼吸した瀧藤なんて気づくこともなく、俺達は賑やかにキッチンへと向かった。
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