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第23話 まこと
次の日、族界隈では
「チキンレースで箱スカのアールを海に突っ込んだ奴がいた。」
って言う噂で持ちきりだった。
突っ張ってチキンレースをやる事になったのは、その頃、解散が相次いだ暴走族でも、ギリ生き残っていた漢(おとこ)組のアタマ、総長エージだ。
埠頭ギリギリまで一直線。
チャラいソアラを改造してボアアップした車で勝負を挑む。どうせ女相手だ、とニヤニヤ笑いながら。
「行くぜっ。」
エンジンを吹かした。
「スタートっ。」
一斉に走り出した2台は埠頭の端に近づく。ギリギリでブレーキを踏んだのはソアラだった。
一方、受け身をとってギリギリで運転席から転がり出たのは箱スカの女。そのまま車だけ海に落ちて行った。
「え、」
「えーっ?」
みんなが走り寄って来た。少しだけ足を擦りむいて血が滲んでいるが、女は無事だった。笑っている。エージが女を抱き起こして
「おまえ、正気か?」
「これでいい?仲間になれた?」
「車、いいのか?アールだぞ。
おまえ、名前は?」
「まこと。
この前自殺した兄貴の車。弔ってやった。」
エージは集まって来た仲間に
「今からこいつは俺の女だ。
マコだ。みんな覚えろよ。」
その時からマコさんの伝説は始まった。
エージはその時、24才。もう族っていう年でもない。落ち着こうと思っていた。マコは19才。
二人は恋に落ちた。その日から一緒に暮らし始めた。自動車整備の仕事をしているエージと、マコは新婚の幸せに周りが見えていなかったかもしれない。エージはそれまで付き合っていた女に、刺されて死んだ。マコのお腹にはエージの子供が出来ていた。
マコは一人で頑張って子供を産んで育てた。族仲間が支えてくれた。
その子供がサリナだった。ーー
「簡単な話よ。何処にでもある、女の嫉妬の話。
パパはいい男だったって、いつも聞かされた。
パパを慕ってくれる後輩がたくさんいて寂しくなかったよ。
あたしはパパのためにタトゥーを入れたの。
柔な男じゃあたしを抱けないように、ね。
ミトは柔な男じゃない。あたしを抱いてくれたもんね。」
でも僕にはわかる。サリナが愛しているのはロジなんだ。
セックスなんて取るに足らない事。そんな事を超越してサリナの愛はあるんだろうな。
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