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第55話 ロジとミト

 九十九里から帰って来て、ロジは仕事に打ち込んでいる。書斎に入ってずっとパソコンの前だ。  僕は書斎に入っても叱られないけど遠慮しておとなしくしている。  本棚には興味深い本がたくさんあるから退屈しない。引きこもりだったから独学は得意だ。    ロジが取り組んでいるテーマは『ゼロ・ポイント・フィールド仮説』難しいけど面白い。  ロジは根源的な事だと言うけど、仮説だから。 『過去、現在、未来、あらゆる情報が存在するエネルギーの場。この宇宙に普遍的に存在する「量子真空」の中に「ゼロ・ポイント・フィールド」と呼ばれる場があり,この宇宙全ての出来事の情報が記録されている、という仮説。』  僕は以前から仏教に興味があって勝手にいろんな本を読み漁って来た。引きこもりだから通販で買ったり,母親の本棚を荒らして、片っ端から読んだ。  人間は死んだら、この思念はどうなるのだろう?というのが僕の知りたい事。  消えてなくなったりはしないんじゃないか?と思うのだ。  唯識論に「阿頼耶識」と言うのが出てくる。八番目の識。この考え方が矛盾がなさそうで気になっていた。  思念、あるいは霊魂とか、心とか、意識、かな?呼び方は何でもいい。  思念は、死んだ肉体を離れて、集合する場所があるんじゃないか?  その場所を「阿頼耶識」と言うのじゃないか? 視覚、触覚、聴覚、嗅覚、味覚。五感があってその次に意識、いわゆる第六感ってあいうやつ。  七番目が潜在意識。眠ってる時夢を見たりするのはこの識の働きだそうだ。  そして八番目が「阿頼耶識」 ゼロ・ポイント・フィールド仮説と似ている。  僕は「阿頼耶識」を魂のデータベースと考えている。 「この頭の中に宇宙があるんだね。」 そう言ってロジは僕の頭をクシャッと撫でる。

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