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第4話

懐かしく、悲しくなる夢 涙も枯れ果てるほど、泣くコトも生きることすら諦めていた時の夢 発情期が近付くとあの時のことが今でも時々夢に出てくる 寝ながら泣いていたのか、涙が溢れ落ちて頬に涙の痕が出来ていた 手の甲で涙を拭い、広く清潔なベッドの上で寝返りを打つ 隣には今、大好きな大切な彼が一緒に寝ていて、彼の寝顔を見ているだけで安心する 「ん...ゆき、…もっとおいで」 寝ぼけていても、僕のことを大切に抱きしめてくれる彼 そんな彼の胸に自分からも擦り寄り、彼の香りを胸いっぱいに感じながらまた眠りについた 次は、幸せな夢がいいな 今の彼と一緒になってからは幸せだった 運命の番というのが本当なのかわからないけれど、彼はこんな汚い僕のコトをそう言い、とても大切にしてくれる また捨てられるのが怖くて、もうひとりになるのが怖くて、番になることを拒み続けている僕なのに… 過去に番がいたことも、家族からも捨てられたことも、彼は全部知っている 知ってて、僕を側に置いてくれる 番になるのは、僕の気持ちが落ち着いてからでいいよ、とまで言ってくれた 彼の番になりたいけれど、番になった瞬間また嫌われるんじゃないかと不安になる 彼が、あの人とは違うとはわかっているのに、また殴られたり、怒鳴られるのが怖い 僕のフェロモンの香りは、人を不快にしかさせないから… 彼にも「臭い」って言われるのが怖くて、発情期が来るのが怖い… 少しでも匂いを抑えたくて、抑制剤を飲むのが止められない それでも、彼の側にいると効き目がなくて… 彼を求めるように発情期(ヒート)が訪れてしまう 嫌われたくないのに… 捨てられたくないのに… 自分の身体なのに、全く言うことを聞いてくれない… 彼は、すっごくいっぱい服を持っている 触り心地の良い生地や色とりどりの服、服も上着も帽子も沢山 寝室の隣に衣装部屋として小さな部屋を作っているくらい クローゼットにはいつも綺麗に並べられていて、すごくいい匂いがする Ωの本能が、彼の服で巣を作りたいって誘惑してくる これで、巣を作ったら綺麗なんだろうなぁ... 彼の匂いに包まれるのは幸せだろうな... 僕みたいなのが巣を作っても、喜んでくれないだろうけど… むしろ、また怒られて嫌われるかもしれない… 巣なんて、作らない方がまだ好きでいて貰える まだ、一緒にいて貰える… 「雪兎、次の発情期(ヒート)はもうすぐだったよね。 その時は休みを貰う予定だけど、急に来たり体調が悪くなったらすぐに言ってね。ずっと雪兎の側に居るから」 僕を向かい合わせのまま膝に乗せ、頭を撫でたり顔中にキスをしてくれる そんな彼からの好意が嬉しくって、でも擽ったくて、つい身を捩ってしまう 「ありがとう、士郎さん。くすぐったいよ」 擽ったさにクスクス笑いながらも、今の幸せな時間を堪能しようと彼に身を任せる 「でも、無理だけはしないでね。お仕事、忙しいのに僕なんかに付き合って、無理だけはしないで… 僕の発情期(ヒート)なんて軽い方だから、ひとりでも大丈夫だから…慣れてるから…」 彼の頬を両手で挟み、愛おしげにキスをする 触れるだけのキスにドキドキしながら、優しく見つめてくれる彼に笑みをこぼす 「うん。でも、俺には雪兎が一番大切だから。雪兎以上に優先することなんて何もないよ」 いつも、彼は僕にそう言ってくれる ギュッと宝物でも抱きしめるように、優しく、でも力強く抱きしめてくれる 2人でいる時間が本当に幸せで、ずっとこの時が続けばいいと願ってしまう 士郎さんの本物の番が見つかったら、また捨てられるかもしれないのに… 僕なんかが、士郎さんの番にして貰えるわけないのに… 今は、今だけでも、番みたいに側に居させて欲しかった いつか、僕のコトを番にして欲しかった そんなワガママを言える立場でもないのに…

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