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第8話

発情期(ヒート)休暇を貰っていたが、緊急の対応が入り、渋々今日だけ仕方なく出社した 彼をひとりにすることに抵抗があったが、「大丈夫。今は落ち着いてるし、士郎さんが帰ってくるの良い子で待ってるから」と可愛らしく言われてしまい、仕方なく… 昨日まで少しでも離れるとすぐに泣いて俺の名前を呼び続けていた可愛い番 いや、まだ番にはなれていないけれど、それももうちょっとだと思う… 最近の雪兎は、好きだと言いながら謝ってくる まだ番になることに対して、何か気になることがあるのかもしれない… 巣作りもして貰えないのは、俺に何かが足りないせいだと思い悩んでしまう 「早く帰って、いっぱい抱き締めてやらないと」 発情期中の寂しがり屋な愛しいΩのことを思い、先方からのどうしてもと言われた対応を笑顔でゴリ押しして片付けた 「じゃ、俺はもう帰るから。後の対応はよろしく。俺がやるヤツは4日後にするから、絶対に呼び出ししないように」 同僚に念を押すように笑顔で言い、会社を駆け足で出て行く 「宮城さんの笑顔、コエぇー…」 「仕事早かったなぁ…先方、絶対ゴネて今日は帰れないかと思ってたのに…」 「番さん、あんなカッコイイαが相手って羨ましい!!」 同僚や後輩からの賛辞の声が飛び交う 「いや、あいつ、まだ御預けされてるから、番にはなってない…あっ…」 口を滑らした部長の一言のせいで、社内が一気に騒めき 「ど、どういうことですか?!」 「あの宮城さんがお預け?」 「部長、宮城さんの番さんのこと知ってるんですか!!?」 質問責めに合うも、部長の必死の笑顔で誤魔化され、詳しい話を一切して貰えなかった そのせいで、噂話しが社内に巡り回ってしまい、真相は、士郎が出社するまで続くことになってしまった まだ空は明るく、定時よりも大分早くに帰って来られたことに安堵する 「雪兎、寂しがって泣いてなければいいが…」 彼を驚かせないようにこっそりと静かに部屋に入る 家中に甘い匂いがほんのりしているのに、リビングにも自室にも雪兎の姿はなく、また寝室に篭ってしまったのかと音を立てないように寝室の扉を開け中の様子を伺う 「あれ…?ここにも居ない?」 ベッドに居ると思っていたが、いつものシーツで出来た丸いお餅の姿はなく、雪兎の姿が見当たらないことに不安が募る まさか、何かあったのか? 冷や汗が落ちるのを感じ、慌てて外を探そうと思った瞬間、寝室の隣の部屋から微かに声が聞こえる 「………だ…、ダメ…」 見つからないようにこっそりと衣装部屋を覗くと、自分の服を愛おしげに見つめる彼を見つけ安堵する ここに居たのか… 俺の服を見てるってことは、やっと巣作りをしてくれるのか? 今までずっと期待しては作ってくれなかった雪兎の巣 それを自分の服でやっと作ってくれるのかと嬉しくなり、その様子を静かに見守ることにした 「これは、シワになっちゃう...こっちは、高そうだから汚しちゃ、ダメ…」 また熱がこもっているのか、火照って赤くなった顔で服を物色しながら何か呟いている その姿はどこか我慢して服を選んでいる姿のように見え、違和感を覚える 全部使ってもいいのに… 何か気に入らない素材があったのだろうか… 肌触りがいいだけじゃやはりダメなのかな 10分程、吟味して選び出したたった1枚のワイシャツを手に取り、大切そうに抱きしめている 皺になり難く、比較的安物のワイシャツ あんなモノがいいのか?1枚だけで巣を作るのだろうか? それとも、まだ、何かあるんだろうか… 過去の番相手に酷くされたとは聞いていたが、思い出して傷付く姿を見たくなくて、詳しくは聞けずにいた 触れることにも、キスをすることも、抱き合うことすら怯えていた雪兎 もしかしたら、巣作りでも何かあったのか…? クローゼットの前に座り込み、選んだワイシャツを大切そうに抱き締めている姿に胸が締め付けられる 今すぐ抱き締めて、いっぱい口付けをしてやりたい もっと深く繋がりたい あの白く細い首に噛み付きたい αの本能がつい出てしまい、フェロモンが溢れ出してしまう

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