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橘 透愛──第13話*
「あ、ぁあ、ァっ……は、ぅ……っ」
最後の一滴まで絞りだすよう扱かれ続け、ぴゅっぴゅっと、断続的に吐き出してしまった。たらたらと零れたものが、姫宮の長い指を伝い茂みに垂れてくる。
ひんやりとして気持ちいい。
「はっ、はぁ、や、あぁ……で、ちゃ……ぁ」
「……橘」
姫宮の喉ぼとけがごくりと上下した。
急いたよう二の腕をわし掴みにされ、大股でベッドの上に引き倒される。
「おわ!」
背中がベッドの上でグラインドする。
「おまえな、急にっ──」
「どうする、橘」
ぎしりとベッドが軋み、姫宮が覆い被さってきた。
「どうする、って」
「君の体のことだ、君が決めていい。僕はそれに従おう」
「……透貴が、帰ってくる」
「そう。まぁ無理強いするつもりはないけれど……」
「んっ」
汗ばんだ腿裏を、つうっと爪で軽く撫でられ、まだ触れられてもいない後孔がくぷっと窄まる。
「その場合、君の体は火照ったままになってしまうね」
ズルい男だ。
ここまでされて、今更抵抗心なんて残っているはずがないのに。だって押し返そうと突き出した手は、既に彼の肩に添えるだけになっている。
それを把握しておきながら、権限を俺に委ねようとしてくるなんて。
「おまえマジで、性格、悪い」
垂れた髪を耳にかける余裕さえ見せてくるのだ、この男は。
いっそのこと有無を言わさず襲ってくれたら楽なのに……あの時みたいに。
「今更? 途中で嫌になったら、僕を蹴っ飛ばせばいいよ」
できるかよ、バカ。
「電話、させてくれ」
長い時間をかけて、消え入りそうな声でそれだけを伝える。誰にとは言わなくとも、姫宮には伝わる。一旦上体を起こして離れた姫宮が、テーブルの上に置いてあったスマホを手渡してきくれた。
「……さんきゅ」
帰ってきた時に、透貴と姫宮が鉢合わせるといろいろとマズイ。
それに、兄にはこんな光景見られたくはない。
「橘」
「なに」
「ゴムは?」
「……そこの、棚ン中」
──いたたまれないことこの上ない。
棚から避妊具を取り出す姫宮から視線を外して、カチ、とスリープ状態になっていた画面を起動し、買い物中であろう兄に電話をかける。
いつものように、3コール目で出てくれた。
《はい。どうかしましたか?》
「……透貴、今、どこにいる?」
《いつものスーパーです。今日はお買い得で……あっそうそう、今夜は透愛の大好きなビーフシチューにしようと思ってるんです。まだ大学ですか?》
「あの、さ」
言い淀んでいると、明るかった透貴の声が切羽詰まったものへと変わる。
《どうかしましたか、何かあったんですか》
「あ、違うよ……ただちょっと、その、俺さ、もう家に帰ってて」
《え?》
「それで、その、ひ……姫宮が家に来てんだ」
《……》
「俺、ちょっと今朝から体がしんどくて……だから、さ……」
沈黙が、痛い。
電話越しの透貴がどんな顔をしているか、手に取るようにわかるから。
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