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7年前──第15話

 もともと、俺と姫宮は同級生だった。  小学6年生の時、たまたま同じクラスになっただけの。  初めて姫宮を見た時の印象は、ちょこんと椅子に座っていると愛くるしいお姫さまみたいだなぁというものだった。  苗字が「姫」だったし、皆からも「お姫さまみたーい」って言われてたし。  当時、姫宮は髪を肩ぐらいまで伸ばしていたので、可憐な容姿と相まってそこらへんの美少女よりも美少女だった。お人形さん、みたいな。  そんな姫宮に、突っかかる子供はいなかった。  なにしろ彼は有名企業の一人息子で金持ち。送り迎えは高級外車。着ている服もセレブ感溢れている。びっくりするほど広い家に住んでいて、家政婦やらお手伝いさんやらみたいなのがいるとかいないとか(後から知ったことだが本当にいる)。  テストは全科目満点が当たり前。英才教育の賜物か、小学生だというのに英語やアジア圏の言語だってペラペラで、芸術だか音楽だかのコンクールでは常に常連。しかも運動神経も抜群で、陸上記録会や水泳大会では選抜だった。できないことを数えた方が早いくらい。  いつもニコニコと社交的で、その可憐な容姿で男子は骨抜き。  誰に対しても優しく親切心なので、女子にも人気。  教師に対しても礼儀正しくて、同年代の悪ガキとは比べ物にならないほどにちゃんとしていた。  俺と姫宮は、全てが真逆だった。季節なんてガン無視で、いつも動きやすい半袖短パン姿。大好きなのはサッカーで、テストはいつも平均以下のさらに以下で、短い休み時間が命とばかりに校庭を駆けまわる小学生男児、俺。  挙句の果てにはせんせ~あ~そぼ~! と全教師にタメ口だった。  姫宮は本当に、俺とは大違いの人種だった。  優等生を絵に描いたような姫宮は、今と同じくいつも取り巻きに囲まれていた。時々ムズカシソウな本を読んでは、取り巻き共に懇切丁寧に説明していた。  まさに非の打ちどころがない魔性の子供。  そんな姫宮が、俺は苦手だった。  ただしそれは、「ちぇ、女にモテるからってちょーし乗りやがって」とかいう思春期特有の拗ねた発想ではなかった。純度100%とも言える姫宮の笑みに、薄ら寒いものを感じていたのだ。  怒ることも、誰かに悪口を言うこともない。  あはは! と朗らかに笑ってその場を明るくさせる。  ニッコリとした姫宮の笑顔を見ると、しびびっと腕とか足がひんやりとする。ぶっちゃけなんか怖い。教室の隅で本当に時々、人に見えない角度で冷めた目をしているようにも見えたし。  バカなりに見抜いていたのかもしれない。子どもらしからぬ姫宮の態度の違和感に。  姫宮の露骨なまでの人当たりのよさは、誰にも興味を抱かないからこその態度なのかもしれないと。  じわじわと膨らみ始めた違和感を放置できなかった俺は。  あの日ついに、言ってしまった。

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