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お節介な奴ら──第77話
「確かにさ、俺らには話せない何かはあると思うよ、見てる限り……でもそういうのって、無理に聞くもんじゃないだろう? いつか橘が俺たちに話してもいいなって思えるぐらい、長く付き合っていこうよ」
「風間さんってばおっとなぁ」
「年上だからなぁ」
「でも、でもさ……あいつ姫宮に対してだってさぁ、変じゃん……変だよ」
そうなのだ。
橘は誰に対しても飾らない態度だし、悪口だって言わない。
誰かに嫌われるような奴でも、ましてや誰かを嫌うような奴でもない。だからこそ橘の姫宮に対する露骨な拒絶反応には驚いた。
そのせいであいつ、姫宮陣営の一部の女子には嫌われ始めているし。
根本的に合わないのか、それとも何か理由があるのか。けれども橘は理由を言わないし、それとなく聞き出そうとするとへらりと笑って、「ちょっとな」とか「別に、なんでもねぇよ」と『あの顔』をするから、聞くに聞けないでいる。
本人はあれで隠せていると思っていたのだから、やはり「純粋」である。
普通の関係であれば、些細な変化には気づかないのかもしれない。
だが綾瀬たちは違う……橘の言う、橘の「親友」なのだ。
夏祭りの時も、なんだかあの2人、変だった。
なんというか、2人が近づいた時の雰囲気が。
ギクシャクしている、とも言えるけれども、それとも違うような……姫宮の方も。
でも、姫宮はさっきも普通に話しかけてきた。むしろ自分から、橘に寄っていこうとしているようにさえ見えた。
いや、でもわからない。
橘もそうだが、それ以上に姫宮は知らないことが多すぎる。とりあえず、あそこは謎だ。
「でも瀬戸、おまえ無理に仲良くさせようとしすぎ」
露骨なのはどっちだっての。
「だって橘いい奴じゃん。優しいしさ。なんでか姫宮にはああいう態度とっちゃうけど。橘のこと、姫宮に勘違いされたくねぇもん……」
「は? そもそもおまえが吉沢にあんなこと言わなきゃな」
「だーから、それは反省したってばぁ! それにマジで軽口だったんだって、『なんかもめてたし、殴ったかもなぁ』ってそれぐらいで……橘がそういうことする奴じゃねえってことぐらい俺知ってるしっ、綾瀬のバカ! バカバカ!」
興奮すると瀬戸は声がでかくなる。
ああだこうだと喚く瀬戸がウザくてテーブルの下から脛を蹴り上げれば、蹴り返された。
こらこらと風間に止められた。
そしてだんだんとテーブルを叩く瀬戸を、まぁまぁと風間がなだめた。
「いい子だなぁ、瀬戸は」
「風間さ~ん、も~~!! 綾瀬はドライすぎだろっ」
「どーでもいいし」
そう、どうでもいいのだ。
橘が何を隠していようがどうでも。わからない部分があっても、どうでも。
心に秘めた言葉をあまり動かぬ頬の筋肉に押し込めていると、柔らかく苦笑した風間に、「綾瀬らしいな」と頭を撫でられた。
ふんと鼻を鳴らす。悪い気分にはならないので、やらせておく。
「うーん、でもなんかねぇかな~、橘と姫宮の仲を取り持つ作戦……あ、そうだ!」
腕を組んで考え込んでいた瀬戸が、ぱっと手を叩いた。いいことひらめいた! みたいな顔をしている。
瀬戸の思い付きは大抵空回るが、暴走気味の瀬戸は言っても聞かない。
あの2人には、干渉しないほうがいいとは思うけれど。
ちょいちょい、と手招きされたので3人で顔を寄せる。
「今夜の飲み会さ、姫宮も誘ってみねえ?」
「──おお!」
「あー……のるか?」
「のるだろ! 夏祭りだって来たんだしさ」
にへっと笑った瀬戸に、なるほどと頷く。
それは、ちょっといい案かもしれない。
「まぁ、いーんじゃね……」
やっぱり笑う瀬戸がウザくて脛を蹴った。
結局のところ、だ。
瀬戸も綾瀬も風間も、なんだかんだとお節介焼きだった。
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次回、ついにあの方が出てきます。
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