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お節介な奴ら──第80話

「君は、 透貴さんによく似ているよ」 「いやいや、いや~、それは、ちょっとさ、いや~」  やばい、冷や汗出てきた。 「……相手が大切であればあるほど、人は怖がるな」  義隆が、 カップをソーサーに置いた。 「言えないことがたくさんある。たとえ、家族であってもね」  義隆がじっと俺を見つめてくる。  姫宮も時々、こういう顔をする。顔立ちはあまり似ていないけれど、雰囲気が姫宮と被る。  やっぱり彼らは親子なのだ。 『君は、僕と』  女子に詰め寄られて困っていた俺を、助けてくれた時。 『僕は、君の』  腰が抜けてろくに立てなかった俺を、おんぶしてくれた時。  俺は、姫宮と。姫宮は、俺の。これに続く言葉はなんだったんだろう。  気にも留めていなかったことを、今意識し始めた。 「恥ずかしながらね、私は樹李と親子と呼べるような関係を築けなかった。築こうともしていなかった」  それは、昔の彼らを見ていればわかる。 「それが愚かなことだったのだと気付いたのは、透貴さんのおかげだ。けれども、君にお義父さんと呼んで欲しいと思ったのも、私の本心なんだよ」 「義隆、さん」 「年に数回、君が来てくれると家の雰囲気が明るくなる。家政婦だって、君のためにと張り切って部屋を掃除するんだ」  姫宮邸で働いているお手伝いさんとも、もう5年以上の付き合いだ。  懐かしい。最初は「なんだこの子どもは」みたいな目で訝しまれていた。  それもそうだろう、Ωの子どもが姫宮家に出入りするだなんて前代未聞の珍事だ。  特に家政婦であれば、Ωによって家を汚された気分にもなっていただろう。  申し訳なくて、これ以上嫌な思いはさせたくなくて、せめて……と訪問するごとに明るく話しかけ続けていたら、だんだんと気さくに接してもらえるようになっていった。  まだつん、とした態度は崩してくれないけれど、ヒートで苦しんでいる時はいろいろと気を使ってくれるし、今ではそれなりに良好な関係を築けていると思う。  少なくとも、姫宮よりは。  これってやっぱり、おかしいよな。  義隆ともこういう風に話せて、家政婦のお婆さんとも仲良くなれたのに。  肝心の姫宮本人とは、ろくに目も合わせられないなんて。  でも今はそうするしかないんだ、姫宮のためにも。  俺はあいつを、解放してやりたい。 「君は昔から、人の感情ばかり背負おうとするな」 「──え」 「それを続けているといつか潰れてしまうぞ、君も、周囲もね」  湯気が立ち昇るコーヒーに、義隆が砂糖を入れた。  意外と義隆は、甘党だ。  しかし姫宮はむしろ、コーヒーは絶対にブラックだ。  俺はコーヒーはあまり好きではなく、眠気覚ましや疲れている時にしか飲まない。前に姫宮の目の前でシロップと砂糖をドバッと入れたら、異星人を見るような目で見られた。ああ、確か「君は正気か?」とも言われたな。  失礼な奴だ。  でも、あれ以降姫宮邸でコーヒーを出される時は、必ずトレイの上にシロップと砂糖が用意されるようになった。「樹李さんに、用意しろと言われました」なんて家政婦のお婆さんは言っていた。  今日の昼だって、さりげなく砂糖をテーブルに置かれた。  大学では友達の前でコーヒーを甘くするのが少し気恥ずかしくて、何も入れないで飲むようにしている。  そんな微妙な俺の見栄なんて、姫宮にはお見通しだったというわけだ。  それのおかげで、コーヒーは全部飲み切れた。  見えないところで、それとなく気付かれないように。あいつが俺に心を配ってくれていることぐらいもう知っている。  だからこそ、辛いのに。 「まぁ、君にそれを強いてしまった私が言えたことではないがね。それに、うちの馬鹿息子のせいでもある……だからこそ一度、腹を割ってやり合ってみるといい。きっと上手くいくさ。樹李は意外と、単純な男だぞ」  膝の上に置いた手を、握る。 「無理、だよ。 喧嘩なんかできねぇよ……」 「どうして?」 「どうしてって……だって俺たちの関係は、あやまちで……まちがってて」  声がか細く、裏返ってしまう。それになによりも。 「あいつ、ずっとずっと、静かなんだよ……」  7年前の熱が、まるでなかったみたいに。 「静か、ね」  だから離れようと思ったのだ。これ以上あいつを、俺に縛りつけたくないから。 「樹李は馬鹿だな。君をここまで思い悩ませて」  砂糖だけじゃ足りなかったのか、義隆はミルクも入れた。 「透愛くん、申し訳ないんだが、私から言えることは限られているんだ。透貴さんにいつも牽制されていてね。でも一つだけ、いいことを教えてあげよう」 「いいこと?」 「ああ」  長いスプーンで、義隆がコーヒーを外側からひとかきする。  すると白い線が円形状に混ざり、くるくると黒い渦に吸い込まれていった。 「嵐の中心は、静寂さ」  ───────────────  ついに、姫宮パパを登場させることができました。  透愛と義隆の関係は、いまはかなり良好です。  義隆と透貴の関係も……  そして、透貴の過去の片鱗が少々……

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