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姫宮 樹李──第107話

 しかし、緊張もあってかなかなか上手にイクことができない。 (足りない、たりないよ、もっと……)  橘が、足りない。  使用済みの靴下に思い切り噛み付けば、橘の匂いがより一層深まった──ああ、幸せだ。  橘を気にすることは、完全に僕にとっての不利益になるというのに。  彼の存在をぐっと近くに感じる行為が、こんなにも幸せだ。  ものの数分で、橘の靴下は僕の唾液でべちょべちょになってしまった。ずるりと口からそれを抜き取れば、靴下と一緒に口の中に含んでしまった黒髪が、唾液と共に垂れ、頬に張り付く。  靴下から視線は外さず、意識だけはちらりと周囲へと向ける。  学校の二階、しかも端の教室なので人影はない。時間的にここに教師が来ないことも把握済みだ。  ごくりと唾を飲み込んで、空気に触れてぷるぷる震える桃色の肉の割れ目に、それを被せる。  そのままずるっと横に動かせば、一気に腰が砕けた。 「……っ、は」  この世に、これほどの刺激があったなんて。 「橘……たちばな、たち、ばな……っ」  手が止まらない。彼の苗字を口にするだけで、口の中が甘くなる。  先端部分をごしごし擦りながら、橘の姿を想像する。  脳内の彼は、いつも淫らに僕を誘った。  でも、彼の下半身はズボンに覆われてしまっているので、惜しげもなく開かれた股の間はいつも白っぽく、ぼんやりしていた。  橘の骨盤は浮き出ているのかな。下の毛は、もう生えそろっているのかな。プールの授業で盗み見ようとしたけど、それはさすがに難しかった。  トイレだって彼はいつも友達と行くから、隣に並んで用を足すことだってできない。  橘のペニスは僕と同じ形をしているのかな。僕より大きいのかな、それとも小さいのかな。  だってプールで見た橘のおヘソは、こじんまりとしていて可愛らしかった。  ちょっと縦の線が長くて、へこんでいるカタチ。  彼のヘソは、一体どんな味がするんだろう。  手の動きに合わせて、見えない彼の下肢に自身を擦り付ける想像をする。  しんと静まり返った教室で、キシキシと橘の椅子が軋む。  もともとの知識として、セックスのやり方は知っていた。  どんなものだろうと興味が湧いて、3年生ぐらいの時に動画を見てみたのだ。  そして、随分と肩透かしを食らったものだ。  ハァハァ息を乱しながら腰を振る男に、アンアン喚きながら足を開く女。  突き入れられる男性器と受け入れる女性器。  響く淫猥な水音にも特別興奮しなかった。試しに女性同士や男性同士のセックスも確認してみたが、結果は同じ。不快もなければ快もない。  発情した者同士が繋がる生殖行為、ただそれだけ。  自分は、そういった欲が他人よりも希薄なのだと、その時は理解していた。  4年、5年生になっても、セックスへの関心は皆無だった。  しかし、橘が気になり始めてからはそんな考えも一変した。  橘のナカはどんな感じなんだろう。  男同士でどこを使うかは知っている。本来ならやっぱり出すところだから汚いのかな。  でも橘だったらそんなのも全く気にならないな。  きっと、彼のニオイであればどんな匂いだって好みになる。  橘の腹はふにふにしているから、やっぱり奥も柔らかいのかな。それともこりこりしていて、硬いのかな。  僕のこの小さな指はどこまで入るんだろう。付け根までかな、それとも手首まで入っちゃうのかな。橘は体が柔らかいから、どこまででも足が開きそうだ。 「たち、ばな……っ」  息が上がる。毎晩毎晩、そんなことばかり考えている。  

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