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透愛と樹李──第192話

「透貴さんにはいつもカーテンを引かれてしまっていたけど、ずっと、君を見ていたんだ……」 「そ、か」  なんかもう、ぶっ飛んだ真実が多すぎて驚かなくなってきたな。あっちこっちで火山が噴火して地震が起きてるから、ちょっとやそっとの揺れや火の粉じゃ動じないというか、慣れてきちまった感じ。 「もう君の生理用のパンツを盗んで、こそこそ君の経血を舐めたりしなくてもいいんだね……?」  超特大の火の粉をまとった岩石が飛んできて、考えることを一瞬放棄した。  姫宮の瞳はうるうるしている。 「な、な……な、め」 「だって、いい匂いがしたから……」  そんな端正な顔で目を伏せて恥じらうな。 「あと、君が忘れていった下着を盗んで匂いを嗅いでオカズにしたり、君の歯ブラシをしゃぶったりしなくてもいいんだよね?」  ……ああ、うん。下着も歯ブラシも、なんか姫宮邸に泊まりにいくと頻繁に無くしてたんだよなぁ……と、遠い目で馳せてみたりしてみる。  なにが「君はよくものを無くすよね」だ。「ドロドロになっていたから捨てたよ」だ。「いちいち返さなければならない僕の身にもなってくれ」だ!  ぜんっぜん捨ててねーじゃん、しかも盗ってたのおまえじゃねぇか。  姫宮の瞳は、やっぱりうるうるしている。  ……やめろ、そんなチワワみたいな目で俺を見るな。 「しゃ……ぶるのはとりあえずやめろ」 「ど……どうしてそんな惨いことを言うんだ」 「俺の歯ブラシはチュッパ〇ャップスじゃねーんだよ……」  頭にぶつかった岩石のせいでくらくらしてきた。  ダメだ、情報過多すぎて突っ込みが追い付かない。あれ、なんで俺こいつのこと好きなんだっけ? なんて3秒くらい考えた。鎮座している感情がちょいぶれる。  いや好き……うん、好きだけどさ。  もうあれだな、変態を通り越してド変態を通り越して最終的には一周まわって……樹李だな。 「下着は?」  ダメって言ったら自死しそうな顔にしか見えない。 「……次からは堂々と取って、嗅げ」  もうそんなことぐらいしか言えなくなった。人はこれを諦めという。しかも。 「うん……ありがとう」  姫宮の瞳がうるうるを超えてきゅるるんっと輝いた。  初めて感謝を述べられたことにも驚きだがそれどころじゃない。  ……うう、やめろ。そんな小動物みたいな顔で俺を見るな、ほだされてしまう。  こいつ無駄に顔がいいから拒否できねーんだよ……つーか嬉しそうな顔をするな! 「信じられない……現実じゃ、ないみたいだ。君みたいな人が、僕を好きだなんて」 「……なんで、そこまで信じらんねぇんだよ」  俺はおまえのとんでもない変態行為すら受け入れるっつってんのに。少し悲しくなってきた。 「だって、君は、君は僕にとっての、聖域だから」  西域? 声域? いや……聖域か。俺が、聖なる──聖なる域? 「せいいきぃ?」 「君はまっさらで、まっすぐで、清らかで、誰よりも純粋で……キラキラしているから……僕みたいな汚れ切った人間とは、真逆の人だから」  べそべそと何をまた、呆れた。  こいつは俺を天使どころか聖母マリアか何かだと勘違いしてやがんのか? いやガンジーとかナイチンゲールとか? ないちん……ちん毛……いや、さっきから脳内がどうしても卑猥な方向へと飛んでしまう。こいつのせいだ。  とにかく、俺はそんなんじゃないのに。 「いやいや、おまえ俺に拗らせすぎ」 「──誰のせいだと思ってるんだ?」 「いや俺のせいじゃねーし! すぐ人のせいにすんのやめろよなっ」  真上から姫宮に冷ややかに見下ろされた。ボロボロ泣きながら絶対零度のひと睨みなんて器用なことだ。

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