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透愛と樹李──第201話
「あのなァ、おまえは俺が惚れた男なんだぞ? もうちょっと自信持てって。俺の夫だろ~? あ、そういや病院で待ってた時おまえのこと『旦那さん』って言われてさァ……なんかちょっと……嬉しかった、へへ」
俺も、姫宮にこてんと頭を預けてみる。びたり、と姫宮が微動だにしなくなって──なんの前触れもなく、ずぼっとズボンの後ろに手を突っ込まれた。
「うおぉっ」
色気もクソもない声が出た。
それでも不埒な両手はやわやわと尻を揉み扱いてくる。
「ちょっ、おまえなにやってんだっ」
「橘……」
「あっこ、こらぁ!」
顔中に吸い付かれながら、あれよあれよ服を脱がされかける。焦ってなんとか制しようとするも、ごそごそと服の隙間から背中や脇腹を這いまわってくる手は止まらない。
これは考えるまでもなく──強引なお誘いである。
「ば、ばか! ダメに決まってんだろ、ここ病院だぞっ」
「プライベートルームだから大丈夫だよ」
「でも普通に看護師くるじゃ、んっ……ァ、お、おいっ……ぅ」
後ろから服をするりとたくし上げられ、胸の尖りを親指でくりくりと擦られ、「あっ……」と簡単に息が上がってしまった。
もうホントに、俺の身体快楽に弱すぎる……!
しかも気を良くした傲慢男に指できゅうっと摘ままれて、甘い声が出そうになってばっと手で口を押さえた。
「ダメ、声聞かせて?」
あの手この手で声を上げさせようとしてくる男を睨みつける。しかし顔が赤いため鋭さは皆無だろうし、なにより力が入らない。手が、口から落ちてしまう。
「も、~~っやめ、ろってぇ……っ」
「大丈夫、ここは防音が効いているから。それに看護師でも医者でも、来たら追い返せばいいだけだ」
こいつは『病院』をなんだと思ってんだ。ラブホじゃねぇんだぞ。
「そ……そーいう、問題じゃ、ね……」
「君としたい──君を抱きたい、今すぐに」
「……っァ」
つう……と、汗ばむ臀部の窪みを下から上にゆるゆると撫でられた。しかも臀部の少し上、腰のくぼんだ部分をぐり、と指先で圧迫されて、ぶるりと腰がくねる……そこは。
「君の中に……ここまで入りたいんだ」
「は……ンん……っ」
むちゅう、と、唇の全てを食むようなねちっこいキスをされた。
「……激しくはしない。君の傷に決して響かないよう優しくするから……お願い」
お願いって、ここまでって……かなり、深いとこ、じゃん! ダメだ、この状態でしてしまったら。
「しゃ、シャワーだって、おれ、浴びてねぇのに! 汗、かいたんだって……っ」
「かまわない。関係ない」
「……うぅ」
「今すぐ、君が僕のものだという実感が欲しいんだ。だから……」
「ダメ、だめ……ホントに、だめだ!」
それでも、頬をぬらりと舐められたことでふにゃふにゃになってしまった身体は言うことを効かなくて、姫宮の成すがまま、ベッドに押し倒されかける……が。
「……ダメ!」
最後の力を振り絞って、ぐいっと姫宮の顔を押し返す。
それでも目を細めた強引男に手のひらをぺろんと舐められたり、腕や手首にキスを落とされ事を運ばれかけるが、ここは強い気持ちでもって、断固として拒否だ。
「お、おまえ、さっき目ぇ覚めたばっかだろ、頭ぱっくりいってんだからな!」
「僕は平気だよ」
「おまえは平気でも俺はちげーんだよ!」
「嫌なの?」
「じゃなくて!」
まず、心の準備が全く整っていないのだ。それに……
「おまえの治りが遅かったら次のヒートどーすんだよ! もう一か月もねぇんだぞっ」
これには流石の姫宮も止まった。
今のうちだと、ぐい~っと最後まで押し返す。やった。
「あのなぁ、俺だって……してぇよ。ホントのことゆーとさ。でも昨日、医者にも目が覚めたら安静にって言われたし、つ、次のヒート……なんか俺、すっげぇことになりそうだし」
「すっげぇ、こと」
「う、うん。なんか、上手く言えねーけどさ……ヤバくなりそうで、おれ……」
「ヤバく、なりそう」
「だってさ、好きな奴と、こう……お互い思いが通じ合ってからすんの、初めてじゃん……」
そうじゃない時も乱れてしまっていたというのに、今回ばかりは、自分の身体がどうなるのかかわからないというのが本音だ。
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