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透愛と樹李──第202話

「今までは、さ……おまえが俺のこと好きじゃねぇって思ってたから。ヒートで、その、ヤんのも、おまえは嫌々、俺のこと抱くんだろうなって思ってて」 「それはありえない。僕がどれだけ君を」 「今はわかってるよ! おまえも相当我慢してくれてたんだろうなって……でもさ、俺だってそうなんだよ。いつもおまえに任せてたから、こう、おねだり? とかしちゃいけないよなって考えてて……でも本当はもっとしたいこととか、色々あって」 「おね、だり……って、なに」 「え、ええ? だから……」  自分で言ったはいいものの、改めて問われると思いつかない……あっ、そーだ。 「えーっと……うーん、つ、突いて欲しいとこ、とかか……?」 「……」  姫宮の表情が、すんっと無に近いものになった。  どういう感情だこれ、わっかんねぇな~。 「だからいつもみたいに、さらっと終わんねぇかもしんねぇじゃん?」 「さらっと、終わら、ない」 「え……あっごめん! 長いとおまえがキツいよな? なら全然、いつもの感じでも大丈夫なんだけど」 「──そんなことはない!」 「お、おお」  ぐわっと顔が近づいてきて、二の腕をわし掴みにされる。  姫宮の目はギンギンに見開かれ、しっかり血走っていた。 「何日でも、いや……何週間でもかまわない……!」 「そ、そーかよ、でも何週間は流石にねぇわ」 「なら一週間だ」 「い、一週間んん? まぁ、大学入ってから不安定だしな……おまえン家がいいっていうなら、身体もこう、完全に落ち着くまで、とか?」 「ああ、ああ。前も言ったが、むしろ始まる数日前から家に来ればいい」 「あー……そういやそんなことも言って」 「一週間と数日でも構わないしむしろ二週間でも構わない、いや一か月でも!」  迫力が先ほどの比じゃないぐらいすごい。  勢いに押されまくって、こくこくと頷くことしかできなかった。 「わ、わかった。一か月も流石にねぇけど、身体が治まり切るまで世話んなる。でも、なら余計にな? おまえが本調子じゃなかったら、そのぉ……ちゃんと動けないだろ?」 「……」  姫宮が「ぁー……」と唸った。 「そうなったら俺が、困るし……おまえだって」 「……そうか」 「そうだろ!」 「あ~~~~……うん……そうだね……動けなかったら困る、ね。うん、その通りだ。動くものね……お互いに」 「だろ? だから今、無茶して傷口が開くようなことは控えよーぜ……な?」  姫宮を見上げながらくいっと袖を引けば、姫宮がぎゅっと目をつぶって苦しそうに額を押さえた。 「え、なんだよどうした」 「……目の前の光景がオアシスすぎて危険なだけだ」 「はぁ? まだ幻覚見えてんのかよ……やっぱり頭痛ぇか? ナースコール押すか?」 「いい、違う。ちょっと待ってくれ、今僕は自分自身と対話をしているんだ。爆発しないようにと」 「は、はぁ」 「あんぜんは、かならずしもさんすいを、もちいず……しんとうをめっきゃくすれば、ひもおのずからすずし……」  ぶつぶつと謎の四字熟語? を呟いていた姫宮がついに頭を抱えてしまった。  考える人みたいになっている。  生殺しだ……と覇気のない声でシーツに項垂れた男が流石に憐れに思えて、「おーい、だいじょうぶか?」と脇腹をつついてみれば、ぱしっと手を掴まれ止められた。 「やめてくれ、股間に響く……」 「げ、げんきだな」 「これが元気に見えるのなら君の目は取り替えた方がいい」 「なんだよ俺のせいかよ」 「全く持ってその通りだ」 「そ、そか。なんか悪ィな……俺、どうしたらいい?」 「そうだね。樹李って、名前で呼んでくれたら元気が出るかもしれない」 「じゅ──樹李? その……今はダメだけどさ、あとでいっぱいしような?」 「……最悪だよ、マジでさいあくだ。鬼畜生だな君は、この天使の皮を被った悪魔め」 「いやなんでだよ!」  心の底からうんざりだというような顔をされた。解せない。

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