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ふたつの嵐──第210話
「君、大学に入学してから3ヶ月ぐらいしてから橘と似たような服を着てくるようになったよね。6月7日に橘と二人でゲームセンターに遊びに行ってメイトによって帰りに駅前の店によって二人で買ってきた服、馬鹿の一つ覚えみたいに大学に4回は着てきたよね。6月9日と13日と18日と25日に橘とサイズ違いのやつ。橘と違って全然似合ってなかったけど。その時の紙袋も参考書を入れたりでやたらと大学に持ってくるようになったけどあれなに、自慢? それとも橘と一緒にこの店に行ったんだっていう牽制なのかな? さっきも乱入して邪魔しにきたし……君には場の空気を察する力というのが備わってないの? イライラするんだよねそういうの」
この口を挟む隙もない、びしびしと石に亀裂が入ってくるようなまくし立てモードはヤバい。大変にヤバい。
ただでさえちっちゃい瀬戸の瀬戸を踏みつけられたり肋骨を折られちゃたまらない。
「まずはその不相応な香水洗い流してこい。鼻がねじ曲がりそうだ」
「ひ、ひめみや、おい」
「もう一度だけ言うよ、今すぐ捨ててこい。君の存在自体が不愉快だ」
「こらァ!」
ぽかーんとしていた瀬戸は、姫宮の身も凍るような冷気に当てられて恐怖のあまり風間の後ろにさっと隠れてしま──わなかった。
俺は、そして姫宮も、彼らを見誤っていたのだ。
「え? やだし」
ぴくりと、姫宮の唇の端が引き攣る。
「だぁって香水も服も俺気に入ってるもん。橘に任せとけばセンスは間違いないし。ぜってー捨てねぇ~、却下却下。あと空気察する力ないのおまえもだかんな、自覚ねぇわけ?」
軽々しくぴらぴらを手を振りながらも、きっぱりと。
しかも残念ながら、風間も綾瀬も瀬戸と同類だった。
「すごいなぁ、姫宮。そんなにまくし立ててるのによく舌噛まないなぁ」
「……」
「俺、よく会話が遅いって言われるんだ、どんな練習してるんだ? 発声練習とか?」
姫宮が、いつもの風間にやられ。
「橘のストーカーじゃん。シンプルにキモ、無理」
「……」
「いやなにその顔、ヤンデレが許されるのって二次元までだから」
ないわ、とドきっぱりと続けた綾瀬にやられ。
「でもさ、前の姫宮よりよくねー? なんか今のおまえとなら仲良くなれそうな気がするわ~! あ、おまえらって夫婦喧嘩してたんだよな? ま、橘も鈍感なところあるからな~、橘の愚痴は俺に言え、な? 聞いてやるからよっ……あ、その代わり、勉強教えて~♡」
あっけらかんと言い切りしなを作った瀬戸に、とどめを刺された。
笑顔を完全に取っ払った姫宮は無表情のままだが、俺にはわかる。
これは、言い返せなくてフリーズしている時の顔だ。
「……うん、おまえの負け」
ぽん、と姫宮の肩を叩いてやると、俺を強く拘束してきた手の力が、緩んだ。
「……なに、こいつら」
「俺の友達」
「うん、間違いなく君の友達って感じがするよ」
「どーゆー意味だそれは」
「類は友を呼ぶって知らない?」
「あ、俺説明できるぞ? 似ている者同士が集まった集団ってことだよなぁ」
「まっ、俺たち気ィ合うもんな~!」
「ディスられてんだよ……」
最後の最後でバイブレーション綾瀬をぶちかまされて、姫宮は完全に毒気を抜かれてしまったようだ。
姫宮は3人と俺を交互に見ると、ようやく俺の首を解放してくれた。
取られる心配がないと、わかったのだろう。
それがわかってしまえば、あとは姫宮の彼らへの興味は一切無くなってしまうのが普通、なのだけれど。
は……と小さくため息を吐いた姫宮が、少し乱れた髪をざっくりかきあげた。
そしてぽしょりと一言、呟いた。
「……飲み会、雰囲気悪くして、ごめん」
しかも、ちょっと気まずそうな顔で。
「事故の時も、応急処置をしてくれたって、聞いた。あと指輪も……ありがとう、瀬戸くん、綾瀬くん、風間さん。おかげで助かった」
それは、何も取り繕っていない姫宮の素のまんまの姿で。
俺はかなり、嬉しくなった。
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バケモンにはバケモンをぶつけんだよ、3対1。
姫宮の負けです。
でもなんとなく、彼らとは仲良くなれそうな気がします。友達になってほしい。
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