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ふたつの嵐──第211話

「いいって、大事な指輪、傷なくてよかったな。で、2人はちゃんと仲直りできたのかぁ?」 「……うん、まァ仲直りっつうか、お互いちゃんと話しあえなかった部分があったから。でもちゃんと、伝えられたよ。心配かけちまってごめんな」 「まー、元鞘に納まってよかったよ」  いつか話せるだろうか。みんなに、姫宮との過去のことを。 「──ま、夏祭りの時おまえらがなんか変だったのもこれで納得」 「俺も気づいてたし」 「嘘つけや」 「……俺は、わからなかった。ちゃんとわかってたら2人きりにしたのになぁ。姫宮も、橘も、本当に申し訳ない。お節介なことしちゃって、ごめんな」 「い、いやそんな!」 「本当だよ。よくも余計なことしてくれたよね」 「こらっ! おまえはもぉ~……」 「いいよね君たちは。アホ面引っ提げて橘と夏祭り楽しく回れて」 「おお、言うな~」  姫宮のツンツンを通り越した塩対応にも朗らかに笑ってみせる風間は、相変わらず心が広い。病人なので加減はしたが、流石に肘で姫宮を突いてやった。  痛いんだけど、と恨みがましく睨まれた。当たり前だろ力入れてんだから。 「俺だっておまえと夏祭り、回りたかったんだからな」 「──えっ?」 「なんだよその顔は。言っとくけどなぁ、俺、黒い帯選んだのおまえのためだったんだけど? 気合いれて髪セットしてさ……なのにおまえ、捺実とイチャついてるから……」 「……それを言うなら僕だって君のために浴衣を新調したんだ」 「え? でもあれ、義隆さんのお下がりだって……」 「本当のことなんて言えるわけがないだろう」  今度は俺が驚く番だった。 「あの金色の帯締めを選んだのも、君を意識してのことだ」  金色って……俺か! 「──それマジ?」 「大マジだよ。浴衣の柄だってそうだ。流水模様の雲の柄」 「流水……水って、なんで?」 「だって君は……僕にとって、穢れを知らない透き通るような水みたいな存在だから」 「ちょっ、ま、まてまて、なにハズいこと言ってんだ!」 「本当のことだけど?」  顔がすぐに赤くなってしまう俺とは違って、姫宮はどこまでも澄まし顔だった。  でももう、これを本心から言ってくれているということはわかりきっている。このスカした面の下で、様々なことを思い巡らせているということも。  こいつがそんな風に俺を想ってくれていた時に、俺は自分のことばっかりだったな。 「……夏、終わっちまうな……」  早くても、姫宮が退院できるのは二週間後。元気そうに見えていても、やっぱり頭の皮は裂けているのだから全快するまでそこそこ時間もかかるだろう。  まだ暑さは残ってはいるが、夕方は随分と涼しくなった。  窓の外から聞こえてくる蝉の声には、もうツクツクボウシも混ざっている。  夏が、終わってしまう。夏祭りは、もうどこもやっていない。  そのうち、秋になる。   「……来年、行けばいいよ」 「来年?」 「うん、来年。2人で」  俺を見ながら、目を柔らかく細めた姫宮にふわりと気持ちが浮上した。 「そ……っか、来年行けばいいのか……一緒に」  これからは、ずっと一緒にいられるのだから。 「ああ」  姫宮のしっかりとした頷きに──唇の端が、ふにゃふにゃと緩む。 「へへっ──楽しみだな!」  しかし突然、「うぐ……」と姫宮が変な声で唸りながらよろめいた。

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