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ふたつの嵐──第218話
「運命なんてものは存在しないよ」
「そんなのわかんねーじゃん……っ、存在するかもじゃん!」
それに、こんなに噂として囁かれているのだから。
運命の番に関する創作物が、大量に出回っているのだから。
俺はずっと、よく見かける「運命の番」というやつに憧れていた。心から想い合える関係っていいなって思っていた。
あんな風に、なんの取り柄もなくったって、たとえ理由がなくたってαにただただ愛される存在になれたらいいのにって。
姫宮とはそんな関係にはなれないと思っていたから、余計に。
だから、怖くて怖くてたまらなかった。
「そうなったら、俺は……」
「変なことをいうね。仮にそんな人がいたとしても、僕は君以外を好きにはならないよ」
「なに言ってんだよっ、Ωの俺は一人しか無理だけど、αのおまえは相手なんて選び放題じゃん! それに運命だぞ、運命って、すげェんだぞ……」
「どこがすごいんだ、そんなもの」
「だって……目があった瞬間、発情して相手のこと好きになっちまうんだ……」
語尾が、どうしても震えてしまう。
運命の前では好きだとか嫌いだとか、そういった自分の意志すらも無意味だ。さっきのドラマのヒロインだって、発情した途端元カレのタカシとの間で揺れ動いていた心が、ぴったりと定まってしまった。
──運命という、見えざる強制力によって。
『サクト! 貴方が私の運命の人だったのね…!』
『ああ、おまえが俺の探し求めていた女だ──やっと見つけた、俺の運命の番。もう二度と離さねぇ』
『サクト……お願いよ、二度と私を離さないで。私だけの運命の人……もう貴方しか見えないの』
『離すかよ。それに、おまえの筋肉に打ち勝てるのは俺だけ……だろ?』
『やだぁもうっ』
バチィーン!!
『ぐっ!』
『きゃー! サクトごめんなさいっ、私ったらまたやっちゃったのね!』
『い、いい……おまえは俺の、運命の番なんだからな……こんな痛みっ』
……と、あのドラマでもヒーローは、ヒロインから与えられた痛みにすらも耐え忍んでいた。
運命というのは、それほどのものなのだ。
こいつの俺への好意を疑っているわけじゃない。でも姫宮もいつかこうなってしまったらと思うと、胸が痛くてたまらなくなる。「君なんかいらないよ」って、「触るな、虫唾が走る」って言われたら。
追いすがる俺を冷たく見下ろしてくる姫宮に、この手をまた、振り払われてしまったら。
──君なんて大嫌いだよって、吐き捨てられてしまったら。
「大丈夫さ、何の問題もない」
「なんでそう言い切れるんだよ……」
「だって僕が始末するもの」
──うん??
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