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第4話

せせらぎ高等部の入学式が間も無く始まると、ホールの一階後部座席、ニ階席は入学生の保護者で埋め尽くされていた。 ホールにはプロの演奏家達が集い、落ち着いた曲を奏でている。 式が始まる時刻となり、演奏が鳴り止むと、ざわついていた保護者席も静まり返った。 その時を待っていた校長がホールの壇上へと登り、ホール内をゆっくり見渡し、柔らかな笑顔を向けた。 『この度はご入学おめでとうございます。我がせせらぎ学園へとても優秀な生徒達を迎え入れることが出来、誠に喜ばしい日となりました』 校長が慣れた様子で保護者達へ呼び掛けるようにマイクを通してスピーチをすると、一階中央扉の上のランプが点灯した。 学生の準備が整ったという合図に校長は小さく息を吐くと、長々とした挨拶を切り上げた。 『今から入学生が入場致します。皆様、ご起立のうえ、皆を迎え入れて下さい』 校長の呼び掛けに保護者達は一斉に立ち上がり、入学生達を迎えた。 内部学生、外部学生合わせて500人弱の学生達がホールの前方に用意された椅子へと着席する。 それを見届けた保護者達もまた席へと座った。 教頭に校長と再び始まったスピーチが終わると在校生の祝いの言葉が贈られた。 それが終わると、ホール内の人間がこれまで以上に辛辣な視線を壇上へと注いだ。 そう……、外部入学生、主席の天海 時雨を見定める為だ。 「いよいよだな」 「ああ。変な野次が飛ばなきゃいいがな」 蓮次郎が含み笑いで楽しげに圭へと声をかけた。 圭は小さな欠伸をしながら頷き、素っ気なく返答する。 そのとき、教頭が時雨の名前を呼んだ。 『入学生代表。天海 時雨』 「はい!」 震える声で声を上げた時雨は壇上脇のカーテン奥からそっと姿を表した。そんな時雨を圭は気怠げに見上げた。 スッと背を伸ばす華奢な身体は緊張で強張っていた。小豆色の髪が歩く速度で揺れ、薄いフレームのメガネの奥の瞳は不安に揺れている。 とても大人しそうな雰囲気ではあるが、儚げで繊細な人目を惹く容姿はとても美しい。 メガネの奥の二重の瞳、小さな鼻に薄い唇。白い陶器のような肌はシミひとつなく、透き通っていて、襟から覗く細い首筋にはなんとも言えない色香を感じた。 『はじめまして……。新入生代表、天海 時雨です』 時雨が壇上中央のマイクへ辿り着き、声を発するまで会場内の人間達は時雨の放つ美しさに魅入られていた。 時雨の辿々しく、恥じらいと戸惑いを感じさせるスピーチに圭は目を離せない。 『………僕達はこれから、せせらぎ学園の一生徒として努力を怠りません。新入生代表、天海 時雨』 締めくくりの礼をし、安堵した様子の時雨が壇上を離れようとしたとき、ホール後部座席から複数の不穏な声が上がった。

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