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第6話
「僕のせいですみませんでした」
入学式を終え、時雨は圭と共に校長室へと呼び出された。
たくさんの資料が納められる棚に囲まれた校長室のど真ん中には、大理石で出来た机と革張りのソファが置かれている。
軽く大人5人は座れるであろうソファに腰掛ける圭は隣に立ち、身体を90度に折り曲げ、青い顔で一人用のソファへ座る校長に頭を下げる時雨を見つめていた。
校長は困ったと言わんばかりに苦笑し、天を仰ぐと、きらめくシャンデリアを見つめた。
「………あの、今後は目立たないようにします。何か発表するときは僕のこと省いて下さい!」
「ねぇ、時雨」
突然名前を呼ばれ、時雨は自分の横で長い足を優雅に組んで悠然と微笑む圭へと顔を向け、再び頭を下げた。
「あ……、あの!あ、ありがとうございました!貴方がいなきゃ、入学式が…」
「うん。そんな事はどうでもいいんだ。俺が聞きたいのは、時雨には恋人がいるのかってこと」
「…………は?」
身を軽く乗り出して首を傾げながら琥珀色の瞳を覗き込ませる圭に時雨は質問の意図が分からず、メガネの奥の瞳をぱちぱち瞬かせた。
「時雨って本当にオメガ?」
「…………はい」
確認するように目と目を合わせ、答えるまで視線を外さない圭に時雨は嫌そうに瞳を伏せて頷いた。
「時雨、俺の目を見て正直に答えて」
時雨の冷たい指へ己の長い指先を絡めながら圭は伏せる小豆色の瞳を自分へと向けさせた。
怯えたような揺れる時雨の瞳に圭は柔らかく微笑んで質問をする。
「恋人はいない?」
「……はい」
「婚約者は?」
「いません……」
「ってことは、もちろん番(つがい)もいないよね?」
真剣味を帯びた低い声に時雨は気圧されながら、小さく頷いた。
それを見た圭はパァーっと晴れやかな顔になり、絡めていた指先を解いて、時雨を抱きしめた。
「時雨、俺の婚約者になって!そして、番になろう!」
今日初めて会って、初めて言葉を交わしたにも関わらず、プロポーズ含みの番を求められ、時雨は面食らった。
それを見ていた校長が苦笑いで口を挟む。
「圭君……、お父様に了承を……」
「ちゃんと両親を説得します。だから先生は黙って俺の味方してください」
校長へ有無を言わさぬ圧をかけると、圭は時雨の髪を指先で梳いて、額へとキスをした。
「ちょ……、ちょっと、困ります‼︎」
「ん?どうして?俺のことタイプじゃない?」
「えぇ!?」
ぐいぐい顔を近付けては整った顔を意地悪そうに歪めて微笑む圭に時雨は何がなんだか分からないと固まった。
「俺、モテるし、金持ちだし、アルファだし、頭も運動神経もいいよ。顔だって整ってて、文句ないだろ?」
全て事実ではあるが、この傲慢な物言いと圧に時雨は呆気に取られた。
「この学園では俺、有名だし、俺のモノになれば周りは何も出来ないし、言えなくなる。時雨にとっても良いこと尽くしだろ?」
だからさっさと頷けと逸らそうとした顎を掴まれ、時雨は迫り来る顔に耐えられず、ギュッと瞳を閉じて声を上げた。
「ごめんなさい!」
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