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第8話

校長の言葉に意識を向けながら、時雨はバクバクと耳鳴りレベルに鳴る自分の心臓を服の上から押さえた。 背中には冷や汗が流れ、目の前の男が怖くて身体が震える。 生まれて初めての経験に訳が分からなかった。 無条件に目の前の男に屈服させられる感覚に陥る。 「君が彼に向けている感情は好意ではなく恐怖だ」 校長が諭すように圭へ告げた。圭も校長が言いたいことが分かるようで、不機嫌そうに顔を歪めるだけで何も言い返しはしなかった。 「俺の何が不満なんだ?この俺が好きだと言ってるんだ。番になってやるって……」 「圭君、そう考えてる事が間違いなんだ。相手は人形じゃない。人なんだよ。人に上下はない。君と天海君は同等なんだ」 圭の時雨を責めるような言葉を校長が厳しい声で遮った。 嗜めてくる言葉に不本意そうな顔をする圭に校長は眉を垂らして、続けた。 「圭君、君は沢山のものを持っている。人が羨ましがる惹き寄せる沢山のものを……。でも、この世にはその魅力が通じない人間もいるんだ」 「…………それが時雨なのか?」 「そうなんだろうね」 ようやく話が通じたと校長は胸を撫で下ろし、にこりと微笑んだ。 「でも、俺が時雨を諦めることはできない。だったら、時雨が諦めて俺のこと好きになるしかなくないか?」 腕を組み、結論は出ているだろ?と、小首を傾げる圭に校長は頭を軽く左右に振ってから答えた。 「違うよ。君が彼を振り向かせるんだ。努力をするんだ。相手を変えるのではなく、君が変わるんだよ」 「………」 圭は校長の言葉に衝撃を受けたのか、固まって動かなくなってしまった。 その様子を黙って見ていた時雨はふと部屋の壁にかかっている時計を見て、焦りだした。

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