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第14話

時雨は顔を洗い、歯を磨くとジャージを着て、アパートを出た。まだ薄暗い道を自転車で走る。 10分走ったその先に明かりを灯す小さな建物前に自転車を停める。 「おはようございます」 頭を下げて扉を開くとそこには年配のおじさんが数名沢山の新聞を抱えて笑顔で挨拶を返してきた。 時雨もその輪の中に入り、慣れた手つきで自分の配分された新聞紙の束を腕に抱え、先程停めた自転車の前カゴへと詰める。 「じゃあ、行ってきます」 自転車に乗って決められたルートを走りならが時雨は新聞配達をした。この仕事は4年も続けている為ベテランだ。 日が登り、5時を過ぎたとき最後の家にポスティングを済ませ、配達会社へ終了のメールを送った。そして、そのまま自分の家へと帰宅した。 簡素なキッチンに立つと、時雨は卵かけご飯と豆腐の味噌汁を作ってテーブルに移動し、簡単に朝食を取る。慣れた手つきで片付けをすると、今度は学校の制服へ着替えた。 そして先程朝食をとった小さなテーブルの上に教科書とノートを広げ、登校時間まで勉強始めた。 時雨は戸籍上、裕福な両親を持つ身だが、実のところ母親がホストとの間に孕んだ愛人の子供の為、家では煙たがれていた。加えて第二の性はオメガ。 小学六年生のとき、検査結果が出て以来、時雨への対応は益々酷くなっていった。 捨てられたも同然の生活を強いられていた時雨は中学に上がると同時に実家を出て、一人で生計を立てながら生活をしていた。新聞配達と潮見の温情で喫茶店で働いていた。 中学卒業と同時に働くことを決めていたが、潮見に何度も止められ、自分一人でも行けるような高校を探した。 そこがせせらぎ学園だった。 せせらぎ学園へは特待生として入学した為、成績を落とすと学費が発生するので勉学は疎かには出来ない。なので、時雨は自身の空いている時間は全て学習に充てることにした。 黙々と予習をしていたら、スマートフォンで7時半にセットしたアラームが鳴った。 時雨はそれを合図にキリのいいところで勉強を切り上げると、薄いフレームの眼鏡をかけて、昨日プレゼントされた腕時計を付け、玄関へ移動して真新しい靴を履き、教科書類が入ったリュックサックを背負って、家を出た。

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