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第20話

「オメガが何強がってんの?」 心底理解出来ないと言わんばかりの表情で自分を見下ろしてくる男に時雨は怒りで震えた。 相変わらず、圭からはアルファ特有の威圧感が放たれていて、恐怖心がないと言ったら嘘になる。 しかし、その恐怖心すら凌駕する怒りが時雨の中で爆発する。 「僕のことなんだと思ってるの?オメガだったら人権はないの?アルファだとそんなに特別なの?偉いの?」 責めるように言い募ると、圭は驚いたと言わんばかりに目を見開いた。 「え?時雨、怒ってる?」 この男にとって、自分は怒りすら見せない生き物と思われていたようで、情けなくなった。 怒りが惨めさに変わり、目の前のアルファに諦めの溜息を吐くと、時雨は静かに告げた。 「………君のこと、到底好きになれそうにない。さよなら」 握られた手首を振り解き、時雨は踵を返してエレベーターの下のボタンを押そうと手を伸ばした。が、その手を再び圭に掴まれる。 「待てよ。何をそんなに怒ってるんだ?勿体ぶるなって言ったこと?気に障ったなら謝るから機嫌治してよ。ごめん」 全く反省の色を見せない口だけの謝罪をしてみせる男に時雨はどこまでも侮辱してくるこの男が嫌で仕方ない。 「本当にもうやめて下さい。僕に構わないで!」 時雨の言葉に本気を感じた圭は何がなんだか分からなかった。 生粋のアルファである圭はいつも自分の周りには好意を寄せるものばかりが集まっていた。 駆け引きでつれない態度を取る者もたまにいたが、自分が一声かければ直ぐに近寄ってきた。それがオメガなら尚のこと。 番にしてくれとせがまれる事は勿論、ベータでも同じアルファからも求婚されることは数えきれないほどあった。 そんな自分が婚約をしたい。番にしたいと望んでいるのだ。 まさか本気で嫌がられてるなんて想像すらしていなかった。 戸惑いや恥じらいで焦れた態度を取っていると思っている圭は嫌そうに顔を顰めて視線を伏せる時雨へ困ったように言った。 「時雨、素直になりなよ。俺はアルファで時雨はオメガ。どっちが優れているか、分かるだろ?」 完全なオメガ差別を口にする圭に時雨は掴まれていない方の手で圭の頬を平手打ちした。

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