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第32話

「ん〜……」 あちこち痛む身体を横に倒しながら時雨はまだ重い瞼をゆっくりと開いた。 見慣れない景色をぼーっと見つめながら回らない思考であれこれ考えていると、徐々に脳が覚醒してきてバチッと目を見開く。 圭との情事を完璧に思い出した時雨は己の浅はかな行動に後悔と反省をしながらゆっくりと身体を起こした。 「……ん」 背中に何かが当たり、振り返ると怪訝そうな声で唸り、眠りにつく圭がいた。 時雨はビクッと身体を跳ねさせる。 まさか隣で寝ているとは思わず、心臓が逸った。 起こさないようにそっとベッドを抜け出し、床に散らばる自身の衣服を集めるといそいそと着替えを済ませ、部屋を脱兎のごとく逃げ出した。 エレベーターに乗って一息つき、時間を確認すべくスマートフォンを取り出す。 時刻は18時になっており、時雨は青褪めた。 バイトの時間が過ぎており、すぐに潮見へ電話をかけた。 数回のコール音のあと潮見の声がスマートフォンから聞こえてくる。 「潮見さん!すみません!僕……」 『時雨君?そんなに焦らなくていいよ?疲れが出て学校も休んでるんだろう?今日は休んでゆっくりしなさい』 「え……、なんで学校休んだこと知って…」 『いつも真面目な君が無断欠勤するとは思えなくて、心配で一応学校へ連絡したら、今日は体調不良で休みだって聞いたんだよ。勝手をしてごめんね』 「いえ!そんな……、僕こそ色々気を遣わせてごめんなさい。明日は必ず行きます」 何度も謝罪をしてから電話を切ると、時雨はズーンっと落ち込んで大きな溜息を吐いた。 特待生のくせに学校をサボり、ホテルで卑猥な行いをし、そのまま眠りこけて生計を立ててるバイトを休んで、己は一体何をやっているのだと落ち込む。 「時雨!」 重い足取りで家へと歩き出した時雨は名を呼ばれ、振り返った。そこにはこの事態を招いた元凶が心配そうな面持ちで立っており、時雨はげんなりした顔で呟く。 「ダメだ……。もう頭がついていかない……」 今はこの変人の相手を到底出来そうにないと、時雨が踵を返したとき、圭がそれは阻むように時雨の細い腕を掴んだ。

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