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第33話
「時雨?どうした?体、大丈夫?起きたらいなくて焦ったよ!」
「あ〜……、うん…」
気のない返事でなんとかやり過ごしたい時雨だったが、それを圭が許すはずはなく、詰め寄りながら時雨を抱き込むように腰へと手を伸ばしてきた。
「無理させてごめん。今日、明日はゆっくり過ごそう?学校にも言っておくし、俺の家へ来る?それともどこかホテルの方がいい?」
「家に帰るから放っておいて」
堕落した今日を送り、明日もそれを引き摺るような暮らしなんて、自分には到底無理だと時雨は溜息を吐きながら断った。
「………何か怒ってる?」
「別に。疲れたから帰りたいだけ」
一人になって色々、整理がしたかった。
無駄にした時間と初めての経験。
自分の中で処理が追いつかず、イライラが募る。
そんな自分を知られるのも嫌で時雨は変な焦りを感じていた。
「時雨……、一緒にいたい。今日は側にいてくれないか?」
懇願するように身体を抱き寄せてくる男に時雨は眉間に皺を寄せた。
「ごめん。……一人になりたいんだ」
「俺の事は置物と思ってくれていいよ!ね?俺の家が嫌ならホテルへ行こう?ルームサービス頼んでゆったりしよう?」
「………」
ハッキリ断っているのに自分の思いが伝わらなくて時雨は嫌そうに顔を曇らせた。
「時雨!お願いだから!俺達、恋人同士だろ?」
「じゃあ、別れよう」
機嫌を伺うような圭は伝家の宝刀と言わんばかりに「恋人同士」の部分を強調した。しかし、それを時雨がざっくり切り捨てた。
そんな時雨の言葉と態度に圭は責めるような怒声を上げる。
「時雨!俺の事、弄んだのか!?ヤリ逃げするのか!?」
「いやいや、薬使ってやりたがったのは君でしょ?弄ぶもなにも、結婚もしないし、番にもならないって言ってるなら恋人でいるのももう、面倒くない?それとも体の相性良かったの?僕、初めてだったからよく分かんなくて」
「初めてっ⁉︎」
淡々とした口調で話していたら、圭の興奮した声に遮られ、時雨は口を閉ざした。
「嘘⁉︎時雨、初めてだったのか⁉︎」
ギラギラとした目で問いただしてくる圭に時雨は少し気まずそうに頷いた。
その仕草を見た圭は歓喜に打ち震え、時雨の華奢な身体をキツく抱きしめた。
「結婚する!絶対するっ!責任とる‼︎」
「いや、要らないから!ってか、苦しぃ……」
どこまでもドライな返しをしてくる時雨だが、圭は心が一気に満たされた。
こんな感覚は生まれて初めてでこの幸福感をどうにか形にしたかった。
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