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25.穏やかで、温かくて**
年末が慌ただしく終わり、それからの1年は、まるで目の回るような忙しさだった。
アメリカのロックバンドの来日公演でオープニングアクトをつとめたことから縁がつながって、夏にはとうとう初めての海外フェスに出演が決定した。
4人とも海外は初めてで、パスポートを取るところから大騒ぎだったが、思った以上に海外公演は好評を博した。
士郎は一生懸命、公演先の現地語でいくつかフレーズを覚えようと練習していたが、結局はステージに上がった瞬間に全部吹き飛んでしまったのか、ひとつも活用できず。
それでも日本語の歌詞などまるでわからないはずの観客がノリノリで楽しんでくれているのは伝わってきて、4人にとって、これが世界という活動舞台を見据える非常に大きな一歩になった。
秋にはセルフプロデュースで5枚目のアルバムをリリースし、惜しくも20位以内には届かなかったものの、週間アルバムチャートには初登場で22位につけた。
方向性は間違っていない。
そう、絢也の確信が深まる結果になった。
この頃から、士郎、啓介、拓郎も本格的に曲作りを行うようになり、いい意味でバンドの音楽性に幅が出てきていた。
間違いなくMr. Liarの曲なんだけれど、自分の作り出したものではない曲で士郎が歌う姿は、絢也の目に新鮮に映った。
翌年には、6枚目のアルバムを、日本とヨーロッパ同時リリースという一大プロジェクトに取り組んだ。
前の年の海外公演で一気に火がつき、現地メディアからの取材も殺到して、とうとうヨーロッパでも正式にアルバムが発売されることになったのだ。
海外でのリリースとなると、権利関係のあれこれがとても複雑で、関係者全員で何時間もミーティングを重ねた。
4月にアルバムをリリースして、5月には単独でのヨーロッパツアー、そして——
「武道館、単独公演……」
「とうとうきたな」
「6月頭ってことは……帰国して割とすぐかぁ」
「いいんじゃね、そのままの勢いでいけそうだし」
アルバム制作も佳境に入ってきた頃に、マネージャーとのミーティングでその決定が知らされた。
音楽で食べていくことを目指した瞬間から、いつかは、と夢に描いていたことが、現実になる。
4人は思い思いの感想を述べあったが、誰もがまだ実感を掴めていないのは、その顔を見れば明らかだった。
だが、数字を見れば、確かに自分たちがもうそれだけの動員ができるレベルに到達しているのだと示している。
それぞれが、ここまでの道のりを噛みしめながら、今後のスケジュールの確認を行なった。
帰りは全員バラバラのタクシーで帰宅する。
啓介と拓郎は、それぞれより広い住まいに引っ越したと言っていた。
絢也は、士郎の家までの絶妙な距離感と、そこでのいろいろな思い出から離れ難くて、今でも変わらず同じマンションに住んでいる。
士郎も、なぜか引っ越そうとする気配はない。
願わくば士郎も自分と同じ思いであって欲しいと、絢也は思っていた。
絢也は士郎と、そう決めたわけでもないが、何となく毎日連絡を取り合っていた。
仕事や用事、あるいは誰かと飲みに行くなんてことがあればそっちを優先させるし、何もなければ一緒に過ごす。
半同棲、というには2人とも忙しすぎて、週の半分を一緒に過ごせれば多い方だった。
こうして、付かず離れずの関係を保って、もう1年半が経つ。
付き合い始めの頃の身を焦がしそうな激しさこそなくなったが、穏やかで温かくて、絢也にとってはかけがえのない関係になっていた。
わざと、士郎のマンションを少し通り過ぎたところでタクシーを降り、歩いて士郎のマンションまで行く。
吐く息は白く、外気の冷たさに少し涙が滲んだ。
別に会うのは絢也の部屋でもいいのだが、始まりが士郎の部屋だったから、というのと、士郎の部屋の方が風呂が広いので、なんとなく絢也がこっちに通う形で今に至っている。
置いていった絢也の分の下着や部屋着がちゃんと洗濯されて置いてあるのが、少しくすぐったい。
意外だと言われるのだが、絢也は才能が音楽に全振りされているような偏りようで、家事も掃除以外が壊滅的である。
一方士郎は絢也と正反対で、汚いのは大して気にしないが、美味い飯が食べたいという動機から料理の腕はなかなかのもの、またお洒落が大好きなために洗濯も苦にならない。
お互いが苦手なところを補い合える、奇跡的なバランスだった。
そんなわけで、遅めの夕飯を2人分作っている士郎を待つ間に、絢也が部屋の片付けをする。
「今日は何?」
「鍋ー」
「おー、いいねぇ。あったまる」
東京は2月に入って寒さがグッと厳しくなり、先週は雪も降った。
鍋は1人でつつくより複数人で囲んだほうが絶対に美味しい。
それが、愛しい存在とであれば、尚更だ。
切っては伸ばし切っては伸ばしを繰り返して、今は胸までの長さになっている髪を括って鍋の味見をしている士郎の肩を抱いて、首筋にひとつキスを落とす。
もう慣れっこだと言わんばかりに、振り返りもせず目を細めるだけの士郎が愛おしくて、絢也は胸がホカホカと温まるのを感じた。
「ゃ、あ……ッん」
きちんと洗い物もして、シャワーも浴びて。
昔はそんなもの全部すっ飛ばして襲いかかっていたけれど、最近はようやくこうしてゆっくりと肌を重ねる時間を取る余裕も出てきた。
冷えないように、ちゃんと布団をかけて、じっくり丹念に愛し合う。
布団の中に潜り込んだ絢也の丁寧な愛撫に、とろとろと士郎が蕩けていくのを感じるのが絢也の何よりの喜びだった。
「は、ぁッ……絢、也、あ、ああッ」
胸の飾りを口に含んで愛でられて、士郎が甘い声を上げる。
「ふふ、士郎、気持ちよくて仕方ないって顔してる」
「あッん、だって、気持ちイイ……ん、あぁ」
ちゅ、くちゅ、と音を立てて舌で舐られる度に、びく、びくっと士郎の身体が跳ねた。
胸元に埋まる絢也の髪の毛に、士郎のしなやか指が差し入れられ、もっと、とせがむように絢也の頭を抱き寄せる。
「絢、ッ也ぁ、もっと、下もして……」
士郎がねだるまでもなく、士郎の雄はもうとっくにとろとろと流した蜜で絢也の腹を汚して、その存在を主張していた。
「ん……1回こっちでイきたい? それとも、こっち……」
クチュ、と士郎の屹立を手でひとなでしたあとに、その濡れた指でもっと下の、熱い窄まりへと触れると、ビクンと士郎が反応した。
「あ! あ、ッあ……」
濡れた瞳が、腹の奥でもっと大きな快楽を求めて暴れ出しただろう欲求に、色づいて揺らめく。
「こっちがいい……?」
目を細めてちゅく、ちゅ、と浅く指を出し入れする絢也に、士郎がむずがるような声を上げて、こくこくと頷いた。
「ッあ、ああッ……!」
たっぷりとローションをまとわせた指をつぷり、と差し入れると、熱く蕩けた士郎の内壁がきゅうきゅうとしゃぶりついてくる。
「すご、士郎のナカ、あっつい」
「ああ、ッん、絢也の、指ッ」
2本、3本、と増やしても、熟れた士郎のナカは従順に絢也の指を受け入れた。
「あ! そこッ、ああッ、んッ」
膨れたしこりを指で挟んで揉むように可愛がってやれば、士郎の腹の上で揺れていた雄から、こぷりと新しい雫が流れ落ちる。
「ッは、ああッ、あ、あああ……」
「気持ちイイ? 前、すごい」
「あッん、イイッ、絢也、気持ちッイ」
短く息を吐きながら、涙をためた瞳で士郎が快感を訴える。
ぎゅうぎゅうと締め付けられて、いつも絢也はその感触に、指だというのにゾクゾクするほどの快感を覚えていた。
「や、も、イっちゃ、から」
力の入らない手で、士郎が絢也の腕に触れる。
「イってもいいよ?」
「や、だ……絢也も、一緒が、いい」
いつもこのセリフを言わせたくて、わざと聞いてしまう。
快楽に蕩けた顔で、一緒にイきたいとねだる士郎は何度見ても血が沸騰しそうになるくらい、かわいいのだ。
「ん……わかったから、待ってて」
士郎に覆いかぶさるように手を伸ばして、ベッドの脇からゴムを取り、自身に装着する。
それを士郎が物欲しそうな表情で見つめているのが、また腰にクる。
かぶっていた布団を跳ね除けて、士郎の足を抱え上げて、大きく開かせて。
士郎が濡れた瞳で絢也を見つめて、微笑んだ。
「あ、ああ……ッ」
「く、あ……」
2人して襲い来る快感に声を漏らしながら、一つになる。
挿れる瞬間にきゅんきゅんと雄を締め付けるその刺激は、何度経験しても持って行かれそうになるのを堪えるので必死だ。
「あ、絢也の、すごい……ッ」
「あんま、締めんなって、ッ」
ずん、ずん、と奥へ腰を進める絢也の動きに合わせるように、士郎が自らも腰を振って、もっと奥へ誘い込もうと貪欲に動く。
汗ばんだ肌は、触れ合う度にとろけるように甘い快楽を広げた。
「動くぞ」
「きて……」
奥まで嵌めて、腰を小さく揺すると、士郎が求めるように手を伸ばす。
「んッ……」
奥を穿ちながら、深いキスをされるのが最近の士郎のお気に入りだった。
苦しくないのかと聞いたところ、苦しいくらいが気持ちイイのだと言う。
「あ、ああ、奥ッ、イイッ、絢也ッ、あああ」
上気させた肌を朱に染めながら、絢也を深く咥え込んで目を瞑り、身体をくねらせる士郎。
いつ見ても美しくて、艶かしくて、絢也は我を忘れてしまう。
浅いところも満遍なく可愛がりながら、絢也は士郎に請われるままに奥の狭いところを突き上げた。
「ああ、だめッ、それ、ああッ」
士郎が長い手足を純也の身体に絡ませて、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。
士郎のナカはうねるように絢也の雄に絡みつき、ひくひくとわなないていた。
士郎の絶頂の予兆を感じた絢也が、ラストスパートをかける。
「あッ、絢也ッ、はげしッ……だめ、それイく、イくッて、ああッ……!」
「……ッ!」
士郎の望み通り、同時に果てた絢也は、はあ、はあと余韻に身体を震わせる士郎の耳元に、ありったけの思いを込めてキスをした。
こんな毎日が、幸せな時間が、ずっとこの先も続けばいい——そう絢也は願っていた。
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