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第13話・初耳
ソーマの質問に対して、セイは真面目に淡々と返答してくる。
「そんなの、裸で洗濯機を回すに決まってるだろう」
「セイが? 裸で洗濯機?」
想像が出来ない。
いつも涼しげでカッコいいセイが、全裸で洗濯機を回している姿は。
今、一糸纏わぬ姿の彼に抱きしめられているというのに、頭に思い描こうとすると出来の悪いコラ画像のようだった。
「言ってなかったか? 俺はお前と再会する前に一度、不摂生が祟って倒れてる」
「初耳ですけど!」
「つまり、お前が一緒にいてくれているおかげで、俺はまともな生活が送れているわけだ。感謝すべきは俺の方。違うか?」
「そ、そうか……?」
ソーマはとんでもないカミングアウトに首を傾げつつ、セイの確信めいた態度に当てられてなんだかそんな気がしてきた。
しかも、妙な説得力があった。
ソーマは学校卒業後、社会人になってから再会した時のセイを思い出す。
(言われてみれば、毛並みも悪くてもっとやつれてたような。俺も仕事始めて痩せたからそういうもんかと思ってたけど)
顔色が良くなり調子を取り戻してきたソーマを見て、セイはトドメとばかりに額に口付けてくる。
「ソーマ、俺にはお前がいないとダメなんだ」
「あ、ありがとう……? ところで、それと仕事を辞めるのはいったい何の関係が……」
「俺とソーマの時間が仕事に奪われ過ぎてる」
「お、おう?」
突如、セイの声のトーンがガクッと落ちる。
長い灰色の尾が不機嫌そうに揺れ始めた。
「どう考えても就業時間が長すぎだ。ソーマが居ない時間が長すぎて気が狂いそうだ。お前がご飯が要らないなんて、そんな日は俺は夕飯を作らないし食わない」
「作らなくても良いから食え!」
「本当はずっと言いたかったんだ。働かなくていいからずっと俺のそばにいてくれ」
「いやいやいや! 俺だってそうしたいけど仕事は」
「せめて転職するんだ。もっとまともな就職先があるはずだ。一緒に探す」
どんどんセイが早口になっていき、ついには話を遮られた。珍しい。
普段はどんなに要領を得なくても、頷いて聞いてくれるというのに。
何が何でも譲らないという気迫を感じる。
仕事が忙しすぎるのではないか、というのはソーマも常々感じていた。
目を逸らしていたが、仕事のせいでセイと対等になるどころか疲れ切って余計に世話を掛けていることも。
勢いに押されながらだが、決断する時が来たのだと腹を括る。
「自分で、ちゃんと新しい仕事を探す……」
「それなら転職は決まりだな」
ふ、と安心したように笑うセイ。
もっと早く言いたかったのだろうが、ソーマの懸命さに口を出せずにいたのだろう。
改めて、緑の輝きが黒い瞳を射抜く。
「結婚は? 俺と、今後の人生をずっと一緒に歩いてくれるか」
「セイ、俺な」
ソーマはセイの唇に唇を重ねる。
そして、一点の曇りもない笑顔を見せた。
「ずっと、結婚したいって思ってた!」
セイも微笑んで力一杯ソーマを抱きしめた。
「愛してる、ソーマ」
「俺も。世界で一番愛してる、セイ!」
幸福感に包まれ再び唇を合わせると、それは次第に濃厚なものになっていった。
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