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執愛が繋ぐ二度目の恋

   9 執愛が繋ぐ二度目の恋 「カイ」 「無理」 「カイ」 「客と外では会わねぇの」 「カイ……」 「だぁっ、何回言われても行かないもんは行かない!」  そんなしょんぼりした声出したって、駄目なんだからな!  ニケの店内では、今日も二人の男のやり取りが微笑ましく繰り広げられていた。  微笑ましく……というのは、あくまで店内にいる他人が客観的に見た感想で、当の本人達からすればそんなつもりは毛頭ないだろう。  店の奥にあるテーブル席。目立っていないと思っているのは当人達だけで、店内の客は皆、自然と零れてしまう笑みをかみ殺すように酒をあおっていた。  セオと肌を合わせて数日。カイはそのことを後悔していた。  今だけ、なんてそのときの激情を正当化するための綺麗事。  温もりを分け合えば情が深くなることなんてわかりきっていたのに。  欲を抑えきれなかった時点で、カイの負けは決まっていたのだ。  カイが複雑に心を乱し、気まずい思いをする中、セオは至って冷静で普段と少しも変わらなかった。  カイの家を知ったからといって無遠慮に押しかけてくるようなこともなく、一夜を共にしたからといって調子に乗るようなこともなく、カイに接する態度はいつも通りで、自分だけが過剰に意識しているようで恥ずかしくなる。  というか、触れ合った翌日に普通の顔で店を訪れるくらいだ。ちょっと……いやかなり常人とは感覚がずれているに違いない。 「……わかった。カイ、休みの日に一緒に出掛けないか? ついてきて欲しいところがあるんだ」 「だから、行かねぇっつってんだろ。なぁにが、わかっただよ。さっきと同じことを言い方変えただけじゃねぇか!」 『連れて行きたいところがあるんだ』が『ついてきて欲しいところがあるんだ』に変わっただけ。  結局用件は同じで、雑なお誘いにカイはさらに牙を剥きだした。 「仕事とプライベートは分けてんの。しつこい」 「じゃあ、ほんの少し遊びに付き合ってくれるだけで良い」 「あのなぁ……」  深く、長いため息が漏れる。痛む頭を押さえるように、カイは右の手で額を覆った。  のれんに腕押し、何度言っても聞き入れないセオに、もしかしてこの国の言葉が通じていないんじゃないかと不安になる。  何度断っても、セオはめげなかった。  今日が駄目でもまた明日。明日が駄目なら、明後日がある。  そうして少しずつ言葉を変え、セオは懲りずにカイへ猛アタックを続けている。  そんなにしてまで、カイをどこへ連れて行きたいのか。  そのしつこさに、その場所に何があるのかと逆に興味が湧いてしまう。 (いやいや、だからって行かねぇけど)  それこそ、セオの思うつぼだ。  店内の客達は二人の会話が気になって次第に息を潜め、いつものニケの騒がしさは嘘のように落ち着いたムードになっていたけれど、自分たちのことで忙しい彼らにそんなことを気にしている余裕はない。 「カイ、お願い。ちょっとでいいんだ」 「しつこいっての!」 「アーッハッハッハ! セオ、お前さんもちーっとも懲りねぇなぁ」  突然、店内に大きな笑い声が響き渡る。  びくりと肩を震わせたのは、カイたちだけではなかった。  ことの成り行きを見守っていた客まで、一同の視線がカウンターに集まる。  カウンターから身を乗り出し涙をこぼす勢いで笑っていたのは、この店の店主だった。  客達と同じように二人の行方を見守っていた彼は、毎日のように繰り返されるその問答に堪えきれず、ついに声を上げたのだ。 「俺はそういうのは嫌いじゃねぇけどな」 「マスター!?」  それに、客達も。酒場にいるほとんどのものが自分たちを見ていることに気付いて、カイはかっと顔を赤らめた。  盗み聞きしていたのがばれた客達は皆、ばつが悪そうに視線を外しそれぞれの会話に戻っていく。 「こいつの言い分じゃ、休みの日じゃなきゃいいってことだろ? おい、カイ。このお兄さんに付き合ってやんな」 「はぁ!?」 「仕事はいいから、これから二人で遊んでこい」 「ちょっ勝手に」 「残りの時間分も給料つけといてやるから」 「……!」  にやつく顔で追い払うように手を振られて、カイは拳を握りしめたまま言葉を飲み込んだ。  カイがセオの誘いに乗るのを渋っているのは、何も給料の問題ではなかったけれど、この男に少し付き合うだけで今日の給料が減らずに済むのはありがたい。  休日に無給で連れ出されるのに比べれば、どちらがいいかなんて明白だった。  悩むカイの隣で、セオはこれ幸いといそいそと身支度を整えている。  まさに天の声。このチャンスを、この男は逃したりはしないだろう。 「カイ、行こう」  余裕の表情でエスコートするように手を差し伸べられて、カイはぐっと奥歯を噛んだ。  カイが断ることなんて、まるで想定していない自信に溢れたその手を、強く引っ叩いてやる。  バシンッと乾いた音が、想像よりも大きく店内に響いた。 「クソッ、今日だけだかんな!」  こいつが無口で口下手なんて、とんだ思い違いだった。  だらしなく緩んだ表情からは嬉しさのオーラがまるで噴水のように何の遠慮もなく噴き出していて、見ているこっちが恥ずかしくなってしまう。  顔を真っ赤にしながら店の出入り口へと向かうカイの様子を、店内にいるものは皆微笑ましく見守っていたけれど、その姿を隠すように後ろをついていくセオの冷ややかな視線にきゅっと喉を詰まらせた。 「ほらよ、持ってけ」  そんな中でも、唯一セオの視線をものともしなかった店主はさすがと言うべきだろう。  彼に持たされた細身のビール瓶を手に、二人は夜の街に出掛けていった。 「どこだよ、連れてきたいところって。行ったらすぐ帰るからな」  二十時を過ぎたばかりの街は、まだ人通りも多くいつもよりも空気があたたかい気がする。  飲み口に刺さったライムをぐっと中へ押し込んでから瓶に口をつけると、しゅわしゅわとした炭酸の刺激の中にすっきりとした爽快感が広がった。 (ん。この感じ、レモンにしても美味いかも)  そのままでは人気のない果実も、アレンジ次第でいろいろなものに合わせることが出来そうだ。  街灯に透かした瓶を揺らすと、ちゃぷんと音を立てて波打つ。  同じように瓶に口をつけ隣を歩くセオは、カイの質問に意味ありげに微笑むだけで何も答えない。 (はいはい、内緒ってね~)  内緒にされてた方が、実物を見たときに感動が大きいんじゃない? なんて、無責任なことを言ったのは、はてさて誰だったか。  まさか、あの会話を聞いていたわけじゃないだろうな……と隣で涼しい顔をしているセオを見るけれど、この男のことだ。聞き耳を立てていたことは、あながち外れてもいないような気がする。  セオが、モスコミュール以外を飲んでいるのを見るのは初めてだ。それ以外の酒をまったく飲めないということでもないらしい。ライムの爽快感が好きなら、きっとこのビールの味も好きだろう。 「もうすぐ着く」  会話らしい会話もないまま連れだって歩き、連れてこられたのは一つの工事現場だった。  どこといわれなくても、ここが街で噂のあの場所だとすぐに気付く。  高さが、尋常ではない。今まで見てきた、どの建物よりも高い。  これは、店主が興奮するのも納得だ。 「来て、カイ」  中を案内する。と、手を引かれて中へ入る。  布に隠された建物は、もうそのほとんどが完成しているようで内装までしっかりと整っていた。 「なぁ、この建物って」 「マンシ……いや、集合住宅と言う方がわかるか」 「集合住宅?」  聞き慣れない言葉に、聞き返す。 「ああ。ここでいう……そうだな、宿屋のようなものを想像してくれたらいい。大きな箱の中に小さな家がいくつも入っている。この建物は十階建てで、一つの階には六部屋あるから、合計で六十の家が入ることになるな」 「六十……」  聞いたこともない数字に驚くと同時に、店主が聞いた話が嘘ではなかったのだと知る。  あのときは、そんな建物夢のようだと思ったけれど、実際にそれを目の当たりにしてもやはり夢のような話だった。  一つの建物の中に六十もの家が入るなんて、前代未聞だ。  セオが言うとおり各階には六個のドアがついており、中に入るとさらに驚く。  宿屋は簡素なベッドが置いてあるだけだったけれど、この部屋にはキッチンもあればバスルームにトイレまでついていて、本当に平屋がそのままぎゅっと集まったみたいだ。  まだ完成していないという最上階に足を踏み入れると、そこはまだ区切られておらず吹き抜けになっている。  ここに六個の家が出来るのだと思うと、やっぱりまだ信じられない。 「足下、気をつけて」 「あ、ああ……」  ここに使われるであろう資材達は、カイの腰よりも低くまとめられて躓かないよう隅に置かれていた。崩れ落ちてくるような高さではないのに、なぜか恐怖を感じてしまう。  高いところは苦手だ。  こんなに高いところに来たのは初めてで、膝がこれ見よがしに震えている。足は床にしっかりとついているのに、どうにも止まらない胸騒ぎがカイの心を波立たせて仕方がない。 「カイ?」 「あ、いや……ごめん、高いところ苦手で」  息が詰まる。思わずセオの腕を掴んでしまうと、セオは悔しそうに顔を歪めてから「……大丈夫」と優しく腰を抱いてくれた。  自ら自分の弱点を晒すなんてこと、普段のカイなら絶対にしない。  腰を抱く腕だって、いつもなら振りほどいてもおかしくないくらいだけれど、今は密着した体にほっと安心のため息が漏れる。 「……この街は、土地が狭くて建物同士が密集しているだろう? 最近は他の街から首都に流れてくる人も多い」 「え?」  カイを腕に抱きながら、セオは遠くを見つめるように語り出した。 「今、この国の技術は急速に発達している。その中で、俺はこの住宅のような高い建物を建てる方法を編み出した。編み出した……というのは大げさだな。もともと持っていた知識をこの世界で生かしている、と言う方が正しい」  セオは時々、自分がこの世界の住人ではないような口ぶりで話す。カイに向かって、前世だなんだとおかしなことを言ったのと同じように。  カイには、セオが言うおかしなことは理解できない。  今の会話の中でカイにわかるのは、店主が話していた“商店に入った優秀な若いやつ”というのがセオだったということだけだ。  そうだと知れば、セオが毎日忙しそうにしているのにも納得がいく。  こんな建物を作る中心人物ともなれば、自分が実際に作業をする立場になくても指示だなんだとやることは山積みだろう。  むしろ、そんな中で頻繁に酒場へ通っていたことの方が驚きだ。  ない時間の中で、それでもどうにか時間を捻出してカイに会いに来てくれていたのだろう。 (……)  ぎゅっと、シャツの胸元を握る。 「横に広げるんじゃなくて、縦に、上に伸ばしていく。そうして高い建物を増やしていけば、より多くの人が住めるようになって土地にも余裕が出来るはずだ」  空を見上げ一面の星空に夢を語るセオの顔は、輝いていた。  星の光をその中に取り込んだ紫色の瞳は、まるでそこにしかない宝石のよう。  セオの夢は立派だ。  実現すれば、この街は……いや、この国はもっと住みやすく発展していくことだろう。  なんの夢もなく、その日暮らしをするカイとは違う。  両親を亡くし、逃げるように田舎から出てきたカイとは……違うのだ。 「すごい、な」  つくづく、自分との違いを思い知らされる。  セオが夢を語るたびに、カイはどんどんセオから遠ざかるような気がした。  体は、こんなにも密着しているのに。伸ばした手は空を掴むばかりで、一向にセオに届かない。  そんな、気がする。 「……俺とは、住む世界が違うや」 「カイ?」 「俺にはさ、お前みたいなそんな大層な夢はない。そんなこと出来る力だってない。自分のせいで両親が死んで、街の人にも腫れ物みたいに扱われて、逃げ出してきた弱虫の俺にはさ」  両親が死んだのを、カイは自分のせいだと思っている。  大雨の日、熱を出してぐずる幼いカイのために医者を呼びに走った両親は、崩落した橋と一緒に濁流に流されて死んでしまった。  本当を言えば、そこまで辛いわけでもなかったと思う。  ただ、いつもは働きづめで忙しい両親が、具合が悪いときだけはずっとそばにいてくれたから、ぐずればもっと一緒にいられると幼い自分は思ったのだ。  そんなカイのわがままが両親の命を奪い、街の人達はこそこそと噂した。引き取ってくれた子供のない夫婦も次第にカイを手に余らせるようになり、いたたまれなくなったカイは街を出ていくことを決めたのだ。  行き先はどこでもよかった。一人でも生活できるくらいの給料がもらえて、遠ければどこでも。この街が、その条件に合っていただけのこと。 「俺は、お前が捜してる“カイ”じゃないよ」  セオが愛した“カイ”じゃない。 「俺自身に面白いところなんか何にもないし。ほら、良く見てよ。本当は全然似てないんじゃない? たとえちょっとくらい似てるんでもさ、俺のことはやめたほうがいい」  きっと、もっと似ているやつが他にいる。  カイよりも、もっと似ていて、それからそいつ自身にも魅力があるやつが。  同じように妥協をするなら、自分じゃない方が良い。 「捜すのっ……手伝ってやる、から」  ポタ……と地面に何かが落ちた。  それは次から次に止めどなく落ちて、地面に無数の染みを作る。 (あれ? 俺、なんで泣いてんだろ)  全部事実だ。嗚咽に言葉を詰まらせる必要もなければ、悲しいことなんか何もないはずなのに。 「でも、今日は解散な。ちゃんとここまでついて来たんだし、約束は果たしたってことで……」  ぐい、と袖口で涙を拭ってセオの体を突き放す。 「あ。悪いけど、これ捨てといてもらっていい? じゃあ、さよなら!」 “また”なんて、いつものような社交辞令に隠した本音は言わない。  だって、もう会わない方が良いから。 “また”はない方がいいから。  まだ中身の残るビール瓶を押しつけて、カイはわざと大きな声で別れを告げる。  にこりと笑みを貼り付ければ、ズキズキと痛んで仕方ない胸の辛さもいくらか和らぐような気がした。 「っカイ、待て! 嫌だ!」  それを呆然と見ていたセオは、腕の中からすり抜けていくカイの姿にはっとして、捕まえようと手を伸ばす。  掴んだ手に力一杯引き寄せられて、バランスを崩したカイの体は大きく傾いだ。 「……っ、カイ!」  ガシャンッ、何かが割れる音が四方を囲む壁にぶつかり反響する。 「あ――」  頭の中に音が響く。  ぐわん、と脳が揺れる。  倒れた体は、少しも痛くなかった。  痛みを感じない代わりに体に巻き付いた何かのせいで、苦しさを感じる。 「い、てて……」  衝撃で瞑った目を薄く開くと、倒れた体の横に割れたガラスの破片が散らばっているのが見えた。  セオに腕を掴まれた拍子に、落ちたビール瓶が割れたのだろう。中身が零れて、床には濡れた染みがしゅわしゅわと音を立てて広がっていた。  じわじわと床に吸収されていく液体。けれど、その中に吸収されずに残っているものがある。 「……?」  ビールとは違う、どろりと重たい何か。  触れると、ぬるりとした感触と共に指先が赤く染まる。 「……っ」  息を呑む。  カイの指先を真っ赤に染めているのは、血だ。  カイは怪我をしていない。痛いところは一つもない。  ならばこの血は、ここにいるカイ以外の人物のもの。 「うっ……」  ぐわん、ぐわん、大きく脳が揺れる。  頭の奥底から、何かがせり上がってくるような不思議な感覚がカイを襲う。 (何だ。俺は、前にも同じようなことが――) 「っ、う……」 「セオ!?」  体の下で、何かが動く。はっとして見れば、それは自身の身を下敷きにしてカイを受け止めたセオだった。  慌ててセオの上から下りると、カイは痛みに顔を顰める男の背を支える。 「大丈夫か!? 血が……」 「痛い……が問題ない。倒れたときに、ガラスの破片で少し手を切っただけだ」  ひったくる勢いでセオの手を掴む。彼の言うとおり、手のひらに出来た傷口からは血が流れ出ていたけれど、どれも深くはなさそうで安心した。 「あ……」  全身の力が抜けて、その場にへたり込む。 「……よかった」  傷ついていない方の手で、セオがカイを抱き締めた。  ぽん、ぽん、と背中を擦られて、ひくと喉が収縮する。 「大丈夫だ。ここの床にはクッション材を敷いていて、部品も腰より高く積み上げていない」 「?」 「安全対策は、しっかり出来ている。……安心して良い」  セオの言っている意味はよくわからない。わからないのに、涙が出た。  小さく頷きぼたぼたと流れ落ちるカイの涙を、セオが親指の腹で優しく拭い取る。  そのまま、すり、と肩口に擦りつかれて、カイは腕一杯に男の体を抱き締めた。  離れないように、きつく、強く。  そうしなければいけない気がした。 「――レモンのモスコミュール」  抱き締め合ったまま、セオが言う。  いつもよりも近く聞こえるセオの声は、いつもよりももっと優しくカイの耳に届く。 「あの酒の作り方は、どこで覚えた?」  こんなときにモスコミュールの話なんて。  と、言いたいところだけれど、それもモスコミュールにこだわるセオらしくて力が抜ける。  カイはセオの肩に頬を預けたまま答えた。 「覚えたっていうか、なんとなく作れちゃったんだよな。レモンを見たときに、どうしてかこれでモスコミュールを作らないといけない気がしちゃってさ」 「そうか……」  背中を撫でた手がゆっくりと解け、柔らかくカイの手を握った。 「モスコミュールを作るとき、ライムを使ったオリジナルの場合でもミントは使わない」 「え……」 「でも、お前は先にウォッカとレモンさらにミントを軽く混ぜ、その葉を抜いてからジンジャーエールを注ぎ、最後にレモンを添える」  そうだろう? そう言うセオの声は自信に溢れている。  まるで、その現場を一部始終見ていたような口ぶりだった。 「なんで……」  セオはカイがモスコミュールを作る姿を、一度も見ていないはずだ。  それなのに、その工程を少しも違うことなく言い当てられて驚愕する。 「あのときと同じ味だからわかる」  繋いだ手が一層強く握られて、カイはびくりと体を震わせた。  パチンッ、例えるなら静電気のような、炭酸が喉を落ちていくようなそんな刺激だった。  微量の電流が、カイの全身を巡り呼び起こす。 「あ――」 『海』  記憶の深くからカイを呼ぶ声がする。  この手を握る力強さも、愛おしい音で呼ぶその声も、カイはずっとずっと前から知っている。 「せ、お」 「……海」  セオの顔を見つめる。紫色の瞳は、今も昔も変わらずカイだけを見つめていた。 「せお、お、まえ……! お前、なんで俺をかばったんだよ。おまえが、しんじゃうから……っ」  きつく繋いだ手。カイは、すべてを思い出した。 「海、ごめん。寂しい思いをさせた」 「ばかやろおぉ」 「ごめん」  繋いだ手を解き、飛びついて、骨なんか折れてしまえという力強さでぎゅうぎゅうとセオを抱き締める。 「ずっと海が手を握ってくれていたの、わかっていた。だから、また絶対に会えるって信じられたんだ」  二人揃ってこの世界に転生出来たのは、死に際に清皇がそう信じて、海が別世界で会えたらと願ったからかもしれない。 「海」  ぼろぼろと零れる涙を、セオの唇がそっと掬い上げる。 「清皇」  ひくつく喉からひり出した震えた声はとても綺麗とは言えなかったけれど、それでも、セオがひどく嬉しそうに笑って涙を零すから、カイはその愛おしいアメジストの瞳にこれ以上ないほどの甘く蕩けるような口づけをした。

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