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夢とカクテル
10 夢とカクテル
カイが前世の記憶を取り戻して、もう三ヶ月が経った。
この世界の日常は、何も変わらない。
カイに前世の記憶があろうとなかろうと、この世界には何の関係もないのだ。夜が過ぎ朝が来て、毎日はいつも通り動いている。
そんな穏やかな日々を愛おしいと感じられるのは、異世界で再び巡り会えた二度目の恋のおかげだろうか。
記憶が戻っても今ある記憶を忘れるようなことはなく、たまに、これはいつの記憶だったかと混乱することはあるものの、不自由なく今まで通りの生活を送っている。
忘れていた前世の“海”の記憶。
思い出すと、ときおり感情が溢れてどうしようもなくなることもあるけれど、そのたびにセオは隣で手を握ってくれた。
冷たいけれど、力強い大きな手。その頼もしさに、カイはひどく安心するのだ。
記憶の中の清皇よりも、現在の彼が大人びて見えるのは、単純に自分が彼よりも二年遅れてこの世界に生まれたからだろうか。
清皇と共にありたい。でも、また彼を不幸にするんじゃないか。
開いた二年という時間に、前世の自分の迷いがあらわれているような気がする。
「カイ」
「あ、ごめん」
「どうした、ぼんやりしてる」
「いや、ちょっと考えごとしてて意識飛んでたわ」
キッチンからなかなか戻らないカイを心配したセオに、後ろから抱き締められてはっとする。
ハハ、と笑って誤魔化すと、セオは少し不貞腐れたようにカイの肩口に顎を乗せた。
「考えごとか?」
「たいしたことない」
「……」
(あ、これは納得してないな)
元々、そう口数の多くないセオだけれど、最近はその沈黙から感情が読み取れるようになってきた。
腹に回された手が交差して、きつくカイの体を囲い込む。
上司からの覚えがめでたいセオは、相変わらず忙しい。
セオが関わったあの高層マンションは無事に完成し、お披露目後数日で満室になる大成功をおさめた。
その手腕を評価され、今はまた新たなプロジェクトのリーダーを任されたようだけれど、毎日慌ただしく過ごしながらも、前世の記憶から、自分達が死ぬ原因になったような事故が二度と起きないようにしたいと奮闘しているみたいだ。
前世の技術を記憶の限りこの世界で実現すること。それが、セオの今の目標らしい。
目の下に出来たクマを撫でる。気持ちよさそうに細くなる瞳に、カイは笑みを零した。
心配をしつつも、打ち込めることがあることは良いことだと思う。できる限り、応援してやりたい。
昔も今も、目標のあるセオを羨ましいと思う。
どうしても自分と比べてしまうけれど、最近はカイにも夢が出来た。セオに比べたら、とてもとても小さな、夢とも言えないものだけれど。
カイの仕事も相変わらずだ。酒場を掛け持ちして働き、変化のない毎日を送っている。
そんな二人の間で唯一変わったものといえば、その関係性の呼び名かも知れない。
ニケで再会したとき、セオはカイに『前世で恋人だった』と言ったけれど、それは本当じゃないと記憶を取り戻して気付いた。前世の自分たちは、恋人になる前に不幸な事故でその命を失ってしまったのだから。
でも、たとえそれが本当のことじゃなかったとしても。セオが、前世の自分を『恋人』と呼べるほどの存在として認識してくれていたことが嬉しかった。
それに、今さら
「俺たち前世で恋人じゃなかったよな?」
なんて言おうものなら、両肩がびしょびしょになるくらいではすまないだろうから言わないけれど。
この世界で正式に恋人という名の称号を手に入れた二人は、共に過ごす時間が増えた。
広さとか設備とか、物理的な問題でどちらかというとセオの家にお邪魔することの方が多いけれど、今日のようにカイの家にセオを呼んで、特別に酒や料理を振る舞うこともある。
本当にごく稀に……という頻度だったけれど、それでも、前世からずっと自宅に人を招き入れたくなかったカイからすればものすごい進歩だ。
一人分で十分だった食器もいつの間にか二人分になり、一人で家にいるときにそれを見ると、どうにもくすぐったい気分になって仕方ない。
「カイ……」
また心ここにあらず状態になっているカイの意識を惹こうと、セオが首筋の薄い皮膚を軽く吸った。
「ン……ッ悪い、ほんとになんでもないんだ。ただ――」
「ただ?」
キッチンの端には、随分と中身の少なくなったウォッカのボトルと、レモンが一つ。
「カクテルを、作りたいと思って」
セオが好きだと言ってくれた、レモンのモスコミュール。
セオのために、カイが特別に作ったそのカクテルは、この世界で二人を繋ぐ架け橋になった。
カイには、セオのように大勢の人を喜ばせ暮らしを豊かにするような偉業を成すことはできない。
できないけれど、セオひとりが喜んでくれるようなものだったら、愛する男をほんのひととき幸せにする小さな魔法くらいだったら、カイにも出来るかもしれない。
「モスコミュールばっかりだと飽きちゃうだろ」
「そんなことは」
「あー、違う。待て、そうじゃない」
素直になれないのは、生まれ変わっても変わらなかったみたいだ。
「そうじゃなくて……お前がもっと気に入ってくれるやつをさ。俺にしか作れないオリジナルのカクテルを、いつかお前に飲ませてやれたらなって思って」
それが、今のカイの夢。
ぼうっとしていたのは、この不思議な巡り合わせに想いを馳せつつ、カクテルのレシピを考えていたからだ。
こんな前向きなことを考えられるなんて、自分が一番吃驚している。
自分から何かをしたいとか、相手のために何かをしてやりたいとか、そんなことを思ったことはなかった。
今も、前世でも、そうカイに思わせてくれるのはセオだけだ。
つくづく、自分はこの男が好きなのだと思う。
自分を変えられるくらい、変えても良いと思えるくらい。
清皇を――セオという男を、愛しているのだと思う。
「なんだよ、変な顔して。嫌なのか?」
カイとしては一世一代のプロポーズ並みに勇気のいる告白だったのに、セオは微妙な顔で固まっていて、カイは途端に恥ずかしくなった。
穴があったら入りたい。いや、過去に戻って発言自体をなかったことにしたい。
(いっそのこと、もう一回転生して――)
「っ、そんなわけないだろう……!」
「わっ」
「嬉しい……嬉しいに決まっている。嬉しすぎて、言葉にならなかった」
「んぅっ、ン、くるし……っぃ」
体のでかさ? というか、骨格の違いを考えて欲しい。
カイの体に巻き付いた腕は、これでもかという程にぎゅうぎゅうに抱き締めてきて、そんなにされてはくっついた部分から一つの塊になってしまいそうだ。
「楽しみにしている、とても」
「ん」
感極まったように少し震えた声でそう言われれば、カイの胸の奥も喜びでくすぐったく震える。
腹の前で交差された手に自分の手を重ねて、そんな恥ずかしさを誤魔化すようにとんとんと数回叩いた。
寄り掛かりながら甘えるようにぐりぐりと頭を擦りつけると、密着した体、ちょうど尻の狭間に硬いものを感じて、カイは自分を受け止める男をちらと振り返った。
(あたってる……?)
目が合ったセオはばつが悪そうに視線を逸らし、そのまま自分の顔を隠すように肩口に額を押しつける。
「ン、せお……っする?」
熱い息が首筋を撫でてくすぐったい。
我慢しているのか、それともただ恥ずかしいだけか。セオは微動だにせず、けれどカイをその腕に捕らえたまま離しはしない。
カイの仕事はいつも昼過ぎからだけれど、ほとんど休みなく働きづめのセオは、きっと明日も朝から仕事だろう。
目の下のクマは前回会ったときよりも濃くなっているし、一秒でも長く睡眠を摂って休息をした方が良いに違いなかった。
でなければ、二人を襲った悲劇と同じようなことが、また起こるかもしれないから。
(とは、思うんだけど)
セオの、恋人のためを思えば、カイがそうさせてやらなきゃとも思うんだけど。
あたかもセオのためのように言いながら、その実、カイは自分にもそうするべきだと言い聞かせていた。
だって、カイはしたいのだ。
つらつらとしたくない方向に言い訳を並べ立てているわけじゃなくて、むしろ、したくて我慢している。
素肌のまま触れ合って、セオが傍にいることを実感して、安心と共に眠り、一緒に朝を迎えたい。
「セオ……」
顔を向けると、むくりと顔を上げたセオにゆっくりと唇を啄まれる。
「ん……」
何度も触れて離れる唇。下唇を食み、上唇を舐め、そうして伸ばされた舌に自らの舌を押しつける。
絡まる舌を掬い取るようにして吸い付けば、震えたセオの腰がぐうっとカイの体を押した。
相変わらずカイの体はセオの腕の中にあって、深く唇を合わせながら、胸に腹に腰に、体中をまさぐるセオの手の動きを甘受している。
「ん、ぁっ」
片腕で腹を押さえ込まれたまま、服の中に潜り込んだ指先に胸の頂を捏ねられて、カイはびくりと体を震わせた。
(ああ、だめだ。だめだ、これは流される。……でも)
「……セオ、こっち」
このまま、この狭いキッチンで繋がってしまいたいほど体は盛り上がり昂ぶっていたけれど、これ以上進めばもう歯止めが利かなくなるのはわかっていた。
結果が変わらないのなら、少しでも体に負担がない方が良い。
「カイ?」
移動して、小さな一応は二人掛けのソファにセオを座らせる。手を引かれ、強引にそこへ座らされたセオは、不安げにカイを見つめていた。
「……つ、疲れてるだろ」
「カイ、」
「いや、しないんじゃ……なくてっ」
行為を中断されると思ったのだろう。引き留めるように両腕を掴まれて、カイは慌てて首を振った。
「その……今日は、俺が、する……から」
かあっと顔が赤くなるのがわかった。でも、両腕を拘束されているせいで、みっともなく上気した顔を隠すことも出来ない。
腕を掴んでいたセオの手が徐々に滑り下り、手の甲を撫で、熱く火照った指先を揉む。そのわずかな刺激にさえ、カイの肌は過敏に粟立った。
「……カイが?」
セオの声は、期待に上擦っていた。
「ん……」
こく、と小さく頷く。頷いたまま、カイは座るセオの脚の間にぺたりと腰を下ろした。
離した手をセオの腿に乗せると、カイを囲う長い脚が小さく揺れる。
緊張から緩慢な動きでズボンのフロントを開放すれば、下着は窮屈そうに張り詰めていて、カイはごくんと唾を飲み込んだ。
口淫はしたことがない。
うまく出来る自信もない。
でも、セオを気持ちよくしてやりたい気持ちだけはある。
「っ……」
下着から掬いだしたセオのペニスは重く、触れればさらに太さを増した気がした。
手のひらで撫でるように扱いてから口に含もうとするけれど、なかなか思い切りがつかない。
顔を寄せたまま唇を湿らせることを繰り返していると、セオの指が優しくカイの髪を梳く。
セオは催促しなかった。強引な男が凶器を無理に押し込むこともなく、ただ繰り返し金糸を愛しく梳く。
「……っ、あ……っ」
梳いた髪の一房を耳に掛けられて、カイは思い切って口を大きく開いた。
それでも、すぐに口に含むことは出来なくて、筋の浮く裏側に舌を這わす。
「っ」
びくっとセオの膝が跳ねる。
嫌だとは思わなかった。
輪郭を辿るように何度も舌を這わせると、とろりとした液体が先端に膨らみ、それを吸い取るように口の中に含む。
「っ、カイ……」
大きな手が、まるで褒めるようにカイの頭を撫でる。
「ぅ……」
転生する前、セオとは何度も肌を合わせた。この世界に生まれ変わって、記憶を取り戻してからもそう。長く離れていた寂しさをうめるように何度も。
でも、その中で一度もこうしたことはなかった。
(変な感じだ)
苦しいのに、やめたいとは思わない。
むしろ、口の中で太く育つそれを感じると、もっと愛でてやりたくなる。
口内に広がる苦みが、カイの中に甘い薬のように浸みていく。
(もうちょっと……入るかも)
先端を柔らかな頬裏に押しつけ舐め転がし、吸い付きながら顔を上下に動かしてみる。
じゅぷ、と音が立ち、柔らかい唇に扱かれた幹を、唾液と苦みの合わさった液体が溢れ伝った。
それを追いかけるように奥まで咥え込むと、途端に嘔吐きそうになるけれど、口を離そうという気にはならなかった。
垂れた蜜液は幹の下でずっしりと存在を主張する睾丸を濡らし、カイは蜜を塗り込めるようにして柔らかな双球を揉む。
「っ、ぅ」
小さく漏れるセオの喘ぎは、カイの気分をさらに高揚させるには十分だった。
もっと奥まで入れたら、きっと締まって気持ちいいはず。
セオのペニスは大きく、口の中に含んでいるだけでやっとの状態だったけれど、熱に浮かされたカイの脳は媚薬に浸されたように蕩け、限界を超えて飲み込もうと欲を掻いた。
ぬるん、と喉に先端が滑る。
「~~――……ッ」
ビリビリと電流が走ったようだった。狭い輪を張り出たエラに扱かれて、快感が突き抜ける。
「ふっ……」
「っ、カイ、だめだ……ッ」
思わずごきゅ、と飲み込んでしまえば、セオは圧搾される快感に堪えるように奥歯を噛みしめ、それでもゆっくりとカイの口を離した。
「ぁっ、が……っゲホ……ッ」
太く大きなものが体の深い部分から抜けていく。
そのずるりと粘膜を擦る感触さえ気持ちが良くて、カイは身を震わせた。
「あ、なんで……」
目の前で揺れるセオのペニスは、まだ萎えていない。
射精を前に中断されて、カイは不満に眉を顰めた。
「一気に奥まで咥えすぎだ。……危ない」
「っ、ン」
ちょうど首の真ん中辺り。今までセオが入っていたであろう膨らみを押されて、ひくと喉が震えた。
「気持ちよくなかった?」
「そんなわけないだろう」
これを見ろ、とばかりに、セオの手がカイの手を上向いたままのペニスに導く。
「上に乗って」
言われるまま、カイはセオの上に跨がった。
腰を落とすと、尻の狭間にセオの熱が触れる。
「あ……」
「カイ」
喉仏に舌を這わせながら、セオは柔いカイの尻の狭間にペニスを擦りつけた。
喉奥深くまで飲み込み、粘度の高い唾液の絡んだそれは、ぬるぬると何度も穴の縁を掠めていく。
「あ、あん……っ」
喉を食まれ、舐めしゃぶられながら、執拗に穴ばかりを擦られては腰が揺れるのを止められない。
張ったエラが穴の縁に引っかかり、淫靡な肉を捲りあげると、そこは貪欲に飲み込もうとひくついた。
「はぁ……っあ、あ」
セオの手が、カイのまろい双丘を鷲掴む。
左右に割り広げられ、引っ張られた穴は埋めてくれるものを求めて誘うのに、セオは掴んだ尻の感触を楽しむように揉みしだき、穴へゆるゆるとペニスを押しつけるばかりで中へ入ってはくれない。
せめて、指を入れてくれたら。
「ん……」
ゆる、と腰を振って、尻を掴む指がそこへ触れるように動かす。カイのはしたない動きに気付いたセオは、もったいつけたように人差し指だけ食ませてくれた。
「……カイ、すごいな。ちゅうって吸い付いてくる」
くす、と笑みと共にそう言われて、恥ずかしいし悔しいけれど否定はしなかった。
その通りだし、ずっと欲しかった物を与えてもらえた喜びに腹の中が疼いてそれどころじゃない。
「……もう一本、いれて」
「ああ、いいよ」
反対側の人差し指が中に入ってくる。ぐに、と両の指で中を広げられて、抜き差しされて、うずうずと奥が切なくなってくる。
(も、少しナカ……)
中までいっぱい埋めて欲しい。
「……セオ」
「カイ?」
ぐっとセオの肩を押す。
中から指が抜ける。セオは不思議そうな顔でカイを見上げていた。
後ろ手に硬く昂ぶったままのセオのペニスを掴み、尻の合わいに挟んで扱く。
「っ、ぐ」
にゅる、にゅく、何度も腰を上下させて蜜の滲む先端を穴に食ませると、きゅうっと臍の下が疼いて仕方ない。
ちゅぷ、にゅぷ、濡れた粘着質な音がする。突かれて離れるたびに、二人の間を太くいやらしい糸が引いた。
「カイ……」
緩い刺激が、もどかしくなったのかもしれない。
腰を掴まれて、カイは窘めるようにその手を軽く叩くと、セオの鼻頭に噛みついた。
「ダメだって。今日は、俺がすんの」
「カ……――ッ!」
目を合わせたまま、硬くそそり立ったペニスの上に腰を下ろす。
「ン、ッんん、ぅ……っ」
(で、……っか)
自重で勝手に沈んでいくとはいえ、一気に奥までは入らなかった。
浅いところで何度も抜き差しをして、ゆっくり時間を掛けてようやく尻がセオの太ももに着く。
肌の上には、びっしょりと汗を掻いていた。
「カイ、辛くないか?」
「はぁ? 辛いよ、お前のでかいんだもん」
「っ」
ふぅっと大きく呼吸をしてそう言うと、セオは息を呑む。
「あっ、またでかくすんなって……!」
「今のはカイが悪いだろう」
これ以上大きくされたら、このまま動けなくなってしまう。
「ン……っ」
ちゅ、と頬を吸われて、カイはもう一度ふうっと大きく深呼吸をした。
欲張って、いっぱいにまでセオを仕舞い込んだ腹の中。内側から、熱い脈動を感じる。
「んあっ、あ」
腰を上げては落とすことを繰り返す。
この角度だとちょうど前立腺を強く擦られてしまって、自分だけすぐに果ててしまいそうだった。
当たる場所を少しずつずらして腰を振る。
今日は、セオを気持ちよくさせることが優先だ。いつものように、自分が先にぐずぐずに気持ちよくなってしまってはどうしようもない。
「あ、あ……っ、ふ、ぅ」
「カイ……」
「ん、きも、ち?」
はふ、と熱く息を吐きながら、目の前の男を見つめる。
短く息を吐き出しながら快感を享受するセオの額には汗が滲み、きゅっと中を締め付けると堪えるように眉間にきつく皺が寄った。
その顔を見るだけで、カイはひどく満たされた心地になる。
「ああ、気持ちいい」
その言葉を証明するように中で彼の欲が膨れ、カイのペニスからも押し出された蜜がとろりとこぼれ落ちた。
よかった。セオも気持ちよくなってくれている。
これで、少しでも仕事の忙しさを忘れ、癒やされてくれたら良い。
「へへ……よかった、ぁ」
こんなに満足に思ったのは、初めてかもしれない。
嬉しくて、心の底からにっこりと笑むと、その満ち足りた笑みを真正面から浴びたセオは息をのみ、呼吸を忘れたように固まった。
「セオ?」
「……今のは、カイが悪い。そうだな?」
「え? 何が、ちょ……っひ、ぐ!?」
ズンッ、突然下から強く突き上げられて体が浮く。
「!?」
浮遊感に慌ててセオの肩を掴めば、歯ぎしりをした男はふうっと深く呼吸をした。
なんだか、嫌な予感がする。
「あ、待って、今日は、おれが……!」
「だめだ、がまんできない」
「ひっ、ん」
自分で動くのとはわけが違う。大事に避けていた前立腺を容赦なく押し擦られて、カイは悲鳴を上げた。
「あ、あっ、そこダメ、ダメだって!」
「さっき、わざとここをずらしていただろう」
「っ、あ」
ばれている。
避けていたことを罰するように、セオは執拗にそこを狙った。
「カイはここが、好きだ。そうだろう?」
「あっ、あ、あ、うぅッ」
リズムよく突かれ、体が跳ねる。振り落とされそうになるのが怖くてしがみつけば、今度は胸にしゃぶりつかれた。
ふーっふーっと熱いセオの息が胸に触れている。
突き立った乳首を転がされ、甘噛みされて、乳輪ごと強く吸い付かれると腹が引き攣り、カイはぐうっと背を丸めた。
(こんな、こんなの……っ)
「っ、はげし、やだ」
「カイ、カイ……っ」
逃げるように仰け反るカイを追いかけ、セオの腕がきつく抱き囲う。
「だめって、ダメ、おれがするのに……っんむ」
(こんなの、俺の計画と違う……!)
いやいやと首を振るカイの顎を捕らえて、セオが口を塞ぐ。
ねっとりと絡んだ舌にぐちゅぐちゅと口内をかき回され、押さえつけられた尻に睾丸がぶつかるほど強く突き上げられて、くらくらとめまいがした。
「ふ、ぅ……うっうぅ――……ッッ」
ぐわん、ぐわん、脳が揺れる。過ぎる快感に目の前が白く爆ぜる。
わけもわからずセオの頭を抱いて、カイはぎゅうっと媚肉を引き攣らせて果てた。
「っ、う、カイ……ッ」
「あっあっあっ……!」
腹の奥が重い。
媚肉はしとどに濡れそぼり、飲み込みきれずに溢れた種が深く呼吸をするたびに繋がった縁から漏れ出てくる。
「っあん……ン」
びゅっ、びゅく……と続く射精を受け止めながら、カイは余韻を名残り惜しむように緩く腰を振った。
たっぷりと愛された媚肉が震えて止まらない。
「……カイ」
ぐったりと身を預けるカイを受け止め、その頬に唇に、ちゅ、ちゅ、と口づけを繰り返す男の胸を、カイは力の入らない手でどんと叩く。
「俺がするって言ったのに……」
「……でも、気持ちよかった」
恨み言のつもりでそう言ったのに。
満足そうにそうのたまうセオは、自分が悪いなんて少しも思っていないのだろう。
腹が立つ。そんなセオも、そんなセオを憎からず思ってしまう自分も。
嬉しさと恥ずかしさと悔しさの混じったなんとも言えない感情。それをぐるぐるひとまとめにして、カイはもう一度自分を抱いて離さない男の胸を叩いた。
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