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22、幸せのその先は
「陽介、おまたせ」
自分の部屋で待つ俺に、晴兄は満足そうな顔で目をとろんとさせて声をかけてきた。しかも急いで上がってきたのか、髪はびしょびしょのままで、俺の庇護欲を掻き立ててきた。
「晴兄…それわざとやってる?」
「え、なんのこと?」
「髪、びしょびしょだよ」
「あぁ、早く交代した方がいいと思って急いできたから」
晴兄は上気した顔でふらふらと俺のベッドに座った。温まったせいで眠くなったのか、うとうとしている。
「風邪ひいちゃうよ。髪乾かしてあげる」
「いいよ、早く入ってこいよ」
「ダメ。このまま寝かねないから」
俺は急いで階段を駆け下り、洗面所からドライヤーを持って部屋に戻った。
割と最速で戻ったつもりだったけど、晴兄はもう夢の中だった。
床に座って、ベッドにもたれかかって、ベッドに髪の水が垂れないようにしたんだろうけど、頭は完全にベッドについていた。
「頑張ってくれたんだろうけど、ベッド濡れてるよ」
気持ち良さそうな手前、起こすこともできず、俺は頭を優しく支えながら、ドライヤーで乾かした。
風音はうるさいはずだけど、昨日変なところで寝たせいで疲れが取れていなかったのだろう、晴兄は起きる気配がなかった。
「口開けて、気持ち良さそうに寝ちゃって」
俺はその子供のような寝顔に愛おしさを感じ、乾かし終えたら自分のベッドに寝かせた。
抱き抱えた時、いつも使っているシャンプーの香りが漂ってきた。当たり前だけど晴兄は自分と同じ匂いをさせていると思うと興奮した。ただそこで俺の気持ちは治まらなかった。それに反応するかのように、俺の下半身も盛り上がっていた。
「わー俺って健全…」
そう自分で自分に言いながら、俺は風呂に急いだ。
ちょっと前に出したばっかりなのに、またこんなことになるなんて初めての経験だ。一般男子高校生程度には性欲があるけど、1日に何回も抜く日がくるなんて思ってもみなかった。
俺はさっさと服を脱ぎ、シャワーを風呂に入った。だけどこれは失敗だった。
「くっ…晴兄の匂いでいっぱい…」
本当に当たり前のことを言っているが、晴兄がさっき漂わせていた甘い香りが風呂の中に充満している。
この時期の俺の家じゃ当たり前の匂いなんだけど、晴兄が纏わせてるだけでさらに甘さが増したように感じる。
俺はその甘い匂いに包まれて、無我夢中で自分のものを慰めた。目を瞑ると、温かい湯気が俺の身体に纏わりつく感じがした。それが、まるでそこに晴兄がいるように錯覚させた。あの柔らかくてスベスベの肌で、俺の全身を撫で回しているような、そんな気持ち良さが全身を駆け巡る。
「ただの空間で湯気だ、晴兄はいない、あるのは同じ匂いだけ」
俺はそう呟きながらも、その状況に興奮して、すぐに達してしまった。
「くっ…はぁ…はぁ…俺早すぎじゃね?」
達したことで訪れる虚無感の中、俺は自分の早さに絶望していた。
いざ晴兄とセックスすることになった時、こんなに早かったら引かれるのかな。それだけは嫌だな。
というか、母さんの言う『性行為』とは一体どこからなのだろうか。今朝、晴兄に口で抜いてもらっちゃったけど、あれは性行為に入るのか、冷静に考えたらよく分からなくなってきてしまった。
「そ、挿入がダメということでいいのか?」
俺はシャワーを浴びながら、割と真剣にそのことについて考えた。考えたところで、もしも今朝の行為がダメでも、もう違反しているので許容範囲にしてほしいところだ。
それにあの口の温かさを知ってしまったら、もう我慢はできない。次もしてほしいし、なんならまた晴兄に飲んでほしいとも思っている。
「待って…俺ってもしかしなくてもスッゲー変態的なのか?」
俺の出したものを飲ませたいだなんて、普通に思うものなのだろうか。
経験がない分、俺は意味もなく1人で悩んでしまった。悩んだからといって正解を導き出せたわけでもないし、ただ悶々として無駄に頭を使っただけだった。
「もう晴兄がいいって言ってるんだからいいってことにしよ!」
俺は考えるのをやめ、風呂を出た。変に頭を使ったせいか、風呂が熱くてのぼせたのか、スッキリしたはずの身体は妙に怠かった。
さっさと着替えてご飯でも食べて、俺も一眠りするかと思いながら、ぼーっと身体をタオルで拭いた。それから服を着ようと手を伸ばすが、いつも置く場所に、下着も服も見当たらなかった。
「あー…急いで降りてきたから持ってくるの忘れた…」
俺は仕方なく裸のまま部屋に戻った。
早く抜きたくて焦ってたにしても、流石に下着くらいは持って出る余裕はあっただろうに。本当に俺は何やっているのだろうか。
自分のアホさ加減に落胆しながら、俺は着替えて、そのまま部屋で髪を乾かした。
その間も晴兄は俺のベッドでぐっすり眠っていた。
お風呂に入る前も思ったけど、晴兄の寝顔は本当に子供みたいに幼く見える。
昔は大人っぽく見えてたけど、いざ自分が晴兄の身長を超えると、こうも違って見えるものなのだろうか。
それなの俺のものを咥える姿はすごく色っぽくて、そのギャップがまた今の寝顔を幼く見せている気がする。
そう思いながら俺は、晴兄の唇にそっと触れた。少し荒れてるけど柔らかくて触り心地の良い唇を、俺は一心不乱に揉んだ。
「ほんと、男の唇かってくらい柔らかいよな…」
「触りすぎ…」
「あ…起こしちゃった?」
流石に触りすぎたせいで、また晴兄を起こしてしまった。せっかくゆっくり眠っていたのに申し訳ないことをしてしまった。
「お腹も空いたし、陽介も勉強しないとだし、ちょうどよかったよ」
「ありがと。じゃあご飯食べに行こう」
「あぁ…」
晴兄は「ちょうどよかった」と言ってくれたけれど、本当はまだ眠たいのだろう。眠そうに目を擦りながら、ふらふらと立ち上がっていた。
俺はそんなふらふらの晴兄を抱き上げた。
「本当はまだ眠たいんでしょ。本当にちょっとだけど、もう少し目を閉じてなよ」
「んー…じゃあお言葉に甘えて」
晴兄は俺の首に手を回して、そのまま目を瞑ってしまった。てっきり母さんたちに見られるから嫌がられると思ったけど、素直に抱かせてくれて正直驚いてしまった。
でも甘えられるのは悪くなかった。むしろ気分が良くて、心が跳ねた。俺は跳ねた自分の心と同じように軽やかに階段を降りてリビングに向かった。
そのあとは母さんと父さんと晴兄と4人でご飯を食べて、部屋に戻ったら晴兄に勉強を教えてもらって、3時のおやつには晴兄とコンビニに行った。
美味しいと噂のスイーツをたくさん買って、晴兄がペロリと平らげるのを驚きながら一緒に食べた。
そうしてまた夜が来て、母さんと父さんと晴兄と4人で楽しくご飯を食べて、夜はPlay をして、スッキリしたら勉強した。
眠くなったら今度はちゃんと俺のベッドで2人で抱き合って寝た。
そんな温かくて幸せな休日を2日も過ごしてしまった。
この時間がずっと続けばいいのにと思うけど、休日は特別な時間だ。平日は問答無用でやってくる。それは晴兄とずっと一緒にいられない時間だ。
「やっぱりこの家で一緒に暮らそうよ」
「そんな寂しそうな顔するなよ。学校でも会えるんだし、また週末に来るからさ」
名残惜しくて晴兄の服を掴む俺に、晴兄は背伸びをして頭を撫でてくれた。身体ばかり大きくなって、こういうところで俺はまだまだ晴兄にとって弟みたいなものなんだと思い知らされる。
「まだ俺のために特別補習してくれる?」
「贔屓はできないけど、中間まではするつもりだよ」
「最後に抱きしめてもいい?」
「最後って…今日の分な」
晴兄は呆れたように笑いながら手を広げて俺を待ってくれた。俺はその手の中に一直線に飛び込み、思い切り晴兄を抱きしめた。
「苦し…」
「ごめん、我慢できなくて…」
「いや大丈夫。明日の放課後までの栄養補給な」
そう言って晴兄も俺を強く抱きしめ返してくれた。
それからしばらく抱き合って、晴兄は自分の家へ帰って行った。
腕の中の温もりはまだ残っているけれど、それは時間と共に消えていった。俺はこんなにも寂しがり屋な人間だったのかと思い知らされるほど、晴兄と過ごした2日は楽しくて賑やかなものだった。
いつも1人で寝ていたベッドも、今はこんなに広かったのかと錯覚した。たった2日なのに、もう何日も何十日も何年も一緒にいたかのように思えた。それは8年という年月を埋めるように深く一緒にいたせいなのだろうか。おかげで俺の脳は完全にバグってしまったようだ。
もう1日たりとも離れていたくないと思うほどに、晴兄への独占欲は膨れ上がり、完全に晴兄なしでは生きられない身体になってしまっていた。
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