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1.青空と"さよなら"と(6)

 帰りの電車の中。柊翔は地元の駅に着いたら、そのまま予備校に向かう。だから、これは一緒にいられる貴重な時間。 「柊翔のクラスは何やるんですか?」 「うち?ああ、なんかお化け屋敷?」 「うわ、ド定番ですね」 「アハハ、そうだね」  参考書を取り出しながら、微笑んでる柊翔。 「要のところは?」 「なんか、写真展やるっぽいです」 「写真展?それ、写真部と被るんじゃないの?」 「俺も、そう思ったんですけど……なんか面白画像みたいのを飾るみたいで」 「ふーん」  パラパラとページを捲ってる。 「でも、俺、そんなに面白い画像とかないんだけどな」  ブツブツ言いながら窓のほうへ顔を向けると、視界の端に、こっちを見ている女子たちが見えた。  ジッと見つめてるのは柊翔のことなんだって、わかってる。  そこから動かないで  柊翔に近づかないで  心の中で叫んでるけど、そんなそぶりを見せたくない。目を閉じて、気持ちを抑え込む。再び開くとき、俺の視界に入らないように、柊翔のほうを見る。 「どうした?」  俺の視線に気づいて、参考書を見たまま聞いてくる。 「……なんでもない」  そう言いながら、見つめていないと、変な不安感が襲ってくる。柊翔の手が、俺のうなじを掴んだ。視線は相変わらず参考書から離れないのに、ゆっくり揉む。その手が心地いいから、素直にその感覚に身を任せてしまう。 「……疲れた?」 「……」  言葉もなくフルフルと首をふる俺に、急に柊翔が眼を向けた。 「……今日、要の家、行こうか?」  ドキっとした。  変な意味で言ってるわけじゃないのは、わかってる。俺が、ちょっと様子が変だって、思ってるから、気を使って言ってくれてるんだって。 「……俺なら、大丈夫ですよ」  ニコッと笑って、再び外を見る。  彼女たちの姿は、相変わらずで、こんなことは、これからもずっとあることだって、慣れななきゃいけないって、わかってる。  どうして……こんな、不安になるのは、なぜだろう。  ……母さんがいなくなったせい?  今までだって、一緒にいる時間は多くなかったし、入院してからなんて、週に1度くらいしか顔を見なかった。それがなくなっただけ。  それが……思いのほか、俺にはダメージだったのか?  拳を握りしめるだけで、こんな不安も握りつぶせたらいいのに。 「……ただいま」  真っ暗な家に帰るのだって、今までと同じはずなのに、今まで以上に寒々しく感じるのはなぜだろう。  一人で過ごすのを、こんなに寂しいとは思ってもいなかったのに。  葬儀の時だって、どこか現実味がなかった。  棺桶に入ってた母は、少し顔色が悪いだけで、普通に寝ているようにしか見えなかった。  それが、今頃になって、俺は『一人』になった、と実感しだした気がする。  親父が忙しくて家にいなくても、なんとも思ってなかったのに。  一人って……食事をする気力もなくさせる。  前はそれでも、何か作って食べてた。作らなくても、何かしら買って帰ってきてた。今では、買い物してくること自体も億劫になってる。  俺は、何もする気が起きなくて、自分の部屋に入るとそのままベッドに倒れ込んだ。
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