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1.青空と"さよなら"と(10)
俺も、何度か告白されたことはあるけど、電車の中でっていうのは……。
「えーと」
隣の要は、すごく顔を真っ赤にして、目の前の子に何か言おうとしている。彼女は彼女で、必死な形相で、要を見つめてる。
『俺の彼氏です』
そう言いきれたら、どれだけ気が楽か。
「彼女はいません」
……そりゃ、そう答えるよな。
小さくため息をついて、俺は彼女に背を向けた。早く、俺たちが降りる駅にならないか。要がどう答えるのか、聞きたくなかった。
「でも、好きな人はいます」
要の恥ずかしそうな声が、聞こえてきた。思わず、チラッと要を見ると、耳まで真っ赤になっていて、そんなヤツを見て、俺も恥ずかしくなった。
「そ、そうですか」
目に涙をためてる彼女。
「し、失礼しましたっ」
それだけ言うと、ちょうど電車が止まった駅で、飛び降りていった。少し離れたところにいた友達らしい女の子とともに。
しかし。残された俺たちのほうは、車内の空気が微妙すぎて、居心地が悪い。
「……なかなか、豪快な子、だったな」
「……はい」
「けっこう、可愛かったけど」
「……そうでしたか?」
そう言うと、ぷいっと横を向いてしまう。
……なんか、カワイイ。
要は嫌かもしれないけど、一々、可愛く思えてしまう。そして、少しだけ、揶揄いたくなる。
「要くん……好きな人って、誰ですか?」
要の耳元に小さな声で聞いてみる。
「!?」
俺のほうを見て、軽く睨んでくるけど、それすら、俺にはかわいいわけで、ニヤニヤ。
「……そういう意地悪言うなら、絶対、言いません」
顔を真っ赤にして、正面を向く。
「教えてくれないんだ」
少し拗ねて言ってみると、首まで真っ赤になてしまう。俺、S気質とは思ってなかったけど、要が相手だといじめたくなるのはどうしてだろう?
俺たちが降りる駅について、電車のドアが開いた。要はすごい勢いで出て行こうとするから、俺も遅れないように追いかけた。
ホームに降り立つと、どちらの改札に行こうかと迷っている要を捕まえて、うちのあるほうの西口の改札に向かった。
ようやく、少し赤みが落ち着いてきた要は、少しだけ、不安そうな顔をしている。
「……大丈夫だから」
要の頭をポンポンと叩くと、要を先に改札を抜けさせた。
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