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1.青空と"さよなら"と(18)

 俺がキッチンに向かうと、テーブルの上に要が用意してくれた料理が並べられていた。 「絶対、要は、いい嫁になれるよ」  制服のジャケットを脱いで、ネクタイをはずす。 「よ、嫁って……」  微妙そうな顔の要を見て、思わず笑ってしまう。二人で食べる食事はなんだか新鮮で、食べながら要の顔をみられることに幸せを感じる。それにしても、おじさんが泊まりっていうのが、俺の中では解せなかった。  あの女の存在があるせいかもしれない。  本当に、仕事の関係で忙しくしているのかもしれない。だけど、あの人には……前科があるから。幸せそうに食べる要の顔。こいつの顔が悲しみで歪んでしまうようなことにならないか、それだけが心配で。俺は、食事の後、親父にメールしていた。  親父からの返事は、すぐには帰ってこなかった。素直に、おじさんがいなくて二人きりだってことに、満足すればいいのだろうけれど。 「柊翔、お風呂できてます」 「ああ」 「それと、着替えですけど……ちょっとサイズ合うかわかんないんですけど」  そう言って、着替えを渡されて、またニヤケてしまう。 「やっぱ、嫁だよな~」 「嫁、嫁、うるさいです」  顔を真っ赤にしながら、食洗機に食器を詰め込む要。 「なぁ」  リビングのドアから、顔だけのぞかせて、要に声をかけた。 「はい?」  チラッと俺に目をやる要。 「一緒に入る?」  揶揄い半分で要に言うと、また真っ赤になる。顔色が変わるたびに、かわいい要が現れるから、揶揄うのがやめられない。風呂から上がって、リビングをのぞくと、ソファに座って、うつらうつらしている要がいた。 「要、風呂、入ったのか?」  ぽやんとした顔の要が、俺の声でビクリと身体を動かした。 「あ、柊翔、もう出たんだ……それじゃ、俺も入ってきます」 「風呂の中で寝るなよ?」  は~い、と、少しばかり気の抜けたような返事をしながら、風呂場のほうに消えて行った。その隙に、俺はスマホを確認した。親父からの返事は、やはり来ていない。やっぱり、忙しいのかな?と、少しだけ安心したら。  今度は、これからのことを思って、ドキドキしてきた。落ち着かなくて、家の戸締りを見て歩く。すると和室の片隅に、小さな仏壇を見つけた。俺は、線香をあげると、じっと、おばさんの生前の小さな写真を見つめる。なんだか、俺に何かを言いたそうな顔をしているように見えてしまう。  おばさん……要は、俺が守るから  心の中で、強く思った。

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