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1.青空と"さよなら"と(21)

 文化祭が近づいてきたというのに、俺はまだ面白い画像撮れずにいた。  休憩時間にスマホをいじってると、ヤスのやつが俺の席にやってきた。 「要、来週の頭には画像用意しておかないと、東海林たち女子に怒られるぞ」  東海林は、うちのクラスの文化祭のまとめ役。お祭り好きの女子。いつも誰かしらと、騒いでるやつ。そういえば、朝のHRでもぎゃあぎゃあ言ってたな。 「そんなこと言われてもさ、ネタになるようなもん、ないんだもん」 「"だもん"じゃねぇっての。東海林怒らせると、怖いぜ……」  何を思い出したのか、顔が真っ青になってる。 「ヤスくんは、前科もちだもんね」  いつの間にかそばに立っていた佐合さんが、クスクス笑ってる。 「何やらかしたんだよ」 「……思い出したくもない……」  げっそりした顔は……相当なことがあったに違いない。  ヤスを揶揄ってる場合ではないのは、俺もわかってるんだけれど。 「そういうお前は、もう出したのかよ」 「あ?任せろ。俺のは、これだっ」  ヤスが自慢げに見せた画像は…… 「ぷ。なんだよこれ」 「従姉の子供。すげー顔して寝てんだろ?面白すぎて、撮ってたんだ」  白目むいて大きな口まで開けて寝てる。カワイイ……と言うべきなんだろうけど、怖い。 「……この子、大きくなった時に、恨むだろうな」 「なんで?」 「こんな顔さらされてたなんて知ったら」 「大丈夫だって。そんなの知るのは、もーっと先だしー。それに言わなきゃ、わかんないって」  ケラケラ笑うヤスに、俺がその子じゃなくてよかった、と、しみじみ思った。 「あー、マジでどうすっかなぁ……」  机に突っ伏して考え込む。考えたところで、何も思い浮かばないんだけど。  たった1枚の画像のために、こんなに悩むことになるなんて。そもそも、あんまりスマホで画像なんか撮らない俺には、高いハードルなんだよな。  ブツブツ言いながら、一人電車に揺られてる。  今日、柊翔は予備校によってく日で。また甘い時間が待ってると思うと、一人でにゾクゾクしてきてしまう。  一人で顔を赤くしてるなんて、変なヤツと思われるかな、と、窓の外を見た。 「参ったなぁ」  真っ赤に染まる空と、その色に染められた風景。その中に、ぽつんと遠くに、大きな黒っぽいものが立っているのが見える。 「あ……なんだ、あれ。」  じっくりと見ているうちに、視界から消えていく。 「……大仏……そっか、あそこにあったんだっけ」  すごくデカイっていうので有名な大仏。あれも撮りようによっては面白く見えるかな。今度の週末にでも、写真撮りに行ってみるか。  柊翔と一緒に行けないかな……って、二人で行くなんて、デートみたい?  そんなことを考えると、自然と笑顔になってくる。今日、柊翔に聞いてみよう、と思いながら、窓の外を見続けた。

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