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1.青空と"さよなら"と(22)
「うわ。やっぱ、でけぇ……」
俺は大仏の足元に立っていた。真っ青な空の中に、どーんと立っている姿。
比較対象になるようなものがないから、デカイはずなのに、どれくらいデカイのか、わからなくなる。
「とりあえず、何パターンか撮ってみるか」
結局、柊翔は模試があるからと、俺一人で来てみた。
周りは意外にも家族連れだったり、カップルだったり、俺みたいに一人で来ている奴は、ほとんどみかけない。
「……なんか寂しいヤツみたいだな」
一人、苦笑いしながら、俺はスマホを取りだして、どういう構図がいいのか、何度も角度を変えたり、撮影する場所を変えたりした。
「パパ~!」
子供の声が、近くで聞こえる。家族連れが、俺の近くを通り過ぎようとしていた。
「ほら、走ると転ぶぞ」
……え?
それは、聞きなれた声だった。
俺の脇を通り抜けていく家族連れ。父親とおぼしき、その人は。
「……親父……?」
思わずつぶやいた言葉に、その男は振り返った。
「……か、要……」
まさか、と思った。
血の気のひいたその顔は、やっぱり、俺の親父の顔で、その人が手にしているのは、ずいぶんと小さな男の子。
「……なんだよ、それ」
不思議そうな顔で見上げているその子の手を、親父は離しもせず、固まったように、そこに立ち尽くしていた。
「獅子倉さん?」
そして、その声も、俺は何度も聞いたことのある声だった。なぜなら、いつも、母親の病室で聞いてた声だから。
「どうしました?」
そして、その声の主は、親父の隣に立っている。にこやかに笑っている、その顔は、母親を担当してた看護師だった。
俺の頭の中は真っ白になった。
なんだよ、これ。は? "パパ"?
母親が死んで、まもないというのに?ていうか、いつからだよ?
俺は、親父に問い詰めたいことでいっぱいになったけれど、それよりも、勝手に身体が動いていた。
「きゃぁぁぁぁっ!」
駆け寄る俺を見て、叫ぶ女。女の存在を無視して、俺は思い切り、親父の顔を殴りつけた。
「パパっ!パパっ!」
子供の呼ぶ声は、余計に俺の怒りを助長させる。
俺の拳は、何度も、何度も親父の顔を殴りつけた。親父が倒れ込んでも、俺の怒りは収まらない。涙でぐちゃぐちゃになりながら怒りの声をあげ殴り続ける俺を、誰も止めようとはしなかった。そして、親父も、ただひたすら俺に殴られていた。
気が付くと、誰かが俺の腕を強くつかんで、引き離された。
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