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2.恋しくて、恋しくて(1)
俺は今、宇野さんが連れて来てくれたマンションにいる。もともと、亮平が転校するまで、亮平一家が住んでいたマンション。
「……広すぎる」
一人ポツンといるリビングには、でかいテレビと、すごい座り心地のいいソファ。名前は知らないけど、きっと有名な人が描いたんだろう、と思う様な、大きな絵画が飾られている。いつでも、住めるような状態になっているこの部屋は、なんのためにあるんだろう。
「一人で住むには、広すぎるかもしれませんが」
そう言いながら、コーヒーを持ってきてくれたのは宇野さんの部下の坂入さん。さっきまで車を運転してくれた人だ。宇野さんよりも、少し年下なんだろうか。
宇野さんが頭の切れるデキル男という感じなのに対して、坂入さんは中性的で柔らかい印象で、とても優しそうに見える。
「……今は、落ち着くまで、ここから学校に通いましょう」
優しく微笑むと、目の前にコーヒーカップを置いた。
自分のことで精いっぱいになってた俺は、ようやっと、柊翔に連絡しなくちゃ……ということに気が付いた。俺は慌てて鞄の中からスマホを取り出した。電話の着信とメールとLIMEのメッセージ……。おかげで、スマホの充電がヤバイことになっている。
大きなため息をつくと、坂入さんに、充電したいことを伝えるて、充電器を貸してもらった。コンセントにつないで、離れようとしたとき、電話がかかってきた。
表示を見ると……親父からだった。思わず、眉間にシワがよってしまう。
その表情に気づいた坂入さんが、"とってもいい?"という顔をした。俺は、話を聞く余裕なんかないから、そのまま、頷いた。
「はい」
『……っ!』
「そうですが。今は、電話に出られません」
『……』
「……ご本人には、伝えておきますが。どうされるかは、要さん次第ですので」
『……っ!!』
親父の声が漏れ聞こえてきた気がしたが、何を言ってるかまではわからなかった。チラリと坂入さんが俺を見たけれど、俺は顔を縦にはふれなかった。
「充電がありませんので、ご連絡は、改めて、うちの宇野のほうからさせていただきます」
そう言うと、親父の話の途中に電話を切ってしまった。
中性的な優しい感じに思ってた坂入さんだったけれど、親父との会話はものすごく事務的で、むしろ恐いとすら感じてしまった。
「……今のでよかったのですか?」
さっきまでとは違って、とても優しく聞いてきた。
「……すみませんでした。ありがとうございます」
今は親父の声なんか聞きたくもない。コーヒーカップを口につける。
「ちょっと、お父さんも冷静になってから、ちゃんと話をしたほうがいいかもしれませんね」
淡々と話す坂入さんの声に、俺も少しだけ落ち着いてきた。
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