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2.恋しくて、恋しくて(4)

「……今日、文化祭のための画像を撮りに出かけたんです」 「うん、そう言ってたよな」 「……そこで、親父と会ったんです」 「……」 「女と一緒にいた親父と」 「……」  柊翔の顔が、少しだけ強張った気がした。でも、驚いてる風ではない。まさか。 「柊翔、もしかして、知って……た?」  思わず、柊翔から身体を離してしまった。その反応に驚いたのか、柊翔は、離れようとした俺を捕まえて抱きしめた。 「ごめん」 「……い、いつから」 「最初は……夏休みに見かけたんだ」 「……そうなんだ……」 「……まさかと思ったよ」 「……」  俺だって。  俺だって、親父が、あんなことしてたなんて、思いもしなかった。ずっと、仕事かゴルフか、そんなもんなんだろうって。親父と一緒に過ごすとか、俺だって、もう子供じゃないから、ありえないと思ってた。だからって。 「……親父、小さい子供連れてたんです」 「子供?」  コクリと頷く。 「その子に……"パパ"なんて、呼ばれてたんです」 「まさか」 「……たぶん、相手の女の子供……だと思いたい」  胸の中に、黒いモヤモヤしたものが膨らんでくる気がした。 「……あの女、ずっと母さんの部屋の担当の看護師だったんです」 「えっ!?」 「……俺なんか、いつも、挨拶してたんですよ?いつもお世話になってます、って」  思い出したら、悔しくて、涙が溢れる。人間の身体の中の水分って、どれだけ泣いたら、枯れるんだろう。 「実は、母さん、死ぬ少し前に、部屋を変えたいって急に言いだしたんです」 「……だから、前とは部屋が違ってたんだ」 「絶対、母さん、感づいたんだと思う」 「まさか」 「だって、それ以外に考えられません。病室だって、お金がかかるから大部屋でいいって、言ってたのに。わざわざ、一人部屋にしてくれって。」 「……」 「……その時だって、親父はいなかったから、俺が見舞いに行った時に、手続きの手伝いしたんです。」  言葉にしていくと、どんどん、親父を嫌いになっていく。どんどん、どんどん、許せなくなっていく。 「俺、もう、あの家にいたくない……」  あんなふうに、小さな子供に微笑んでた親父の顔、もう、どれくらい見ていないだろう。あれは……あれはもう、俺の親父じゃない。 「俺は、一人ぼっちだ……」  急に、ストンと暗闇に落ち込んだような気分になる。俺には、家族なんかいないんだ。 「何言ってんだよ。俺がいるだろっ!?」  肩を強くつかんで、じっと俺の顔を見つめる柊翔。 「ふっ、くっ……う、うぅぅっ!!」  嗚咽を抑えられなくて、口元を両手で抑える。 「大丈夫、俺がいるからっ」  柊翔の必死な声がするのに。俺の中は、空っぽみたいで、柊翔の声ですら、通り抜けてしまうようだった。

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