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2.恋しくて、恋しくて(7)
「宇野さん、俺、車で待ってます」
「ああ」
大人には大人の話があるんだろう。
俺は、これ以上、あそこにいて、おじさんの顔を見ていられなかった。要じゃないけど、俺だって、殴り飛ばしてやりたかった。バックを後部座席に放り込むと、助手席に座って宇野さんが戻るのを待った。
チラッと要の家を見る。玄関の隣にある部屋の窓から、小さな影が外をのぞいている。
……あれは、要が言ってた、あの女の子供か。
「クソッ」
……子供は……悪くない。
それはわかっていても、要のことを思うと、怒りの方が優先してしまう。
……早く、この場から離れたい。
座席に身体を預けると、両手で顔を覆った。今は、何も見たくない。そうじゃないと、目に見えるものすべてに、怒りをぶちまけてしまいそうになる。
気が付くと、宇野さんが車に乗り込み、車を動かし始めた。
俺たちは、何も言わずに、要の待っているマンションに向かう。目の前に見えてくると、要の泣いている顔ばかりが、頭の中にちらついて、苦しくなる。
「鴻上くん」
静かに、でも、少しだけ、怒りをにじませた声で、宇野さんは話し始めた。
「一応、君には言っておきます……たぶん、獅子倉さんは、あの人と再婚するつもりです」
「……」
「要くんが高校を卒業するまではしない、とは言ってましたが……あの女性が、そこまで待てるかどうか」
……俺がいない間に、どんな会話が交わされたのか、あの女もあの場に出てきたのか。
「獅子倉さんが、あんなに弱い方だとは思いませんでしたよ」
それは、俺だってそうだ。昔は、あんなに要のために、と頑張っていたのに。
「奥さんが弱ってしまうと、ダメなタイプだったのでしょうかね……」
要に、なんと話したらいいのか。
「鴻上くんは、何も言わなくていいですからね」
俺の心の中まで、読めるのか、とギョッとして隣で運転している宇野さんを見た。
「その辺のことは、大人に任せておきなさい。君は、獅子倉くんを支えてあげなさい」
「俺に、何ができるんでしょうか」
ため息をつきながら、目の前のマンションを見上げる。
「人は、信じられる相手にそばにいてもらえるだけでも、安心するものですよ」
宇野さんの優しい声に、振り返ると、どこか遠くを見ているようだった。何かを思い出しているんだろうか。
「さぁ、獅子倉くんのところに戻りましょう。だいぶ、遅くなってしまった。君も、家に帰った方がいい」
「いえ、今日は、要と一緒にいます」
「でも」
「そばにいてやりたいんです」
……俺は、絶対に要のそばから離れやしない。
車が止まると、俺はバックを取って、要の待つマンションに向かった。
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