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2.恋しくて、恋しくて(8)

***  泣き疲れた次の日から、三日間、なぜか高熱が出て寝込んでしまった。自分なりに、やっぱりショックがデカかったせいかと、今ならそう思える。そして俺は、亮平の家が用意してくれた部屋で、一人で暮らし始めた。  もともと、親父が家にいつかないから、一人で暮らしていたようなもので、住んでいる場所が変わっただけで、今までとあまり変わらない。  違いと言えば、柊翔の家に行かなくなったこと。  ……おじさんと、おばさんに、会いたくなかったから。  たぶん、柊翔からか、宇野さんからでも、話を聞いているに違いない。行ってしまえば、すごく甘やかしてくれるかもしれないけど。俺たちの関係を知ったら、そんな風に接してくれるとは思えない。  これ以上、優しくされて、その後に拒否られたら……。  そう思ったら恐くて、あの家に行けなくなった。  そして、この部屋を借りてしまっている今の状況も、俺の中では心苦しいこと、この上ない。宇野さんは、気にするな、と言ってくれたけれど、そんなのは無理な話。俺があまりにもしつこいので、宇野さんは、 「だったら、亮平さんと付き合ってくれますか?」  だなんて言う始末。そんなの無理に決まってるのに。 「でしたら、せめて、メールなりLIMEででも、やりとりしてあげてください」  それだけでいいんだろうか。 「それだけで、亮平さんには、なによりも嬉しいんですよ」  ポンポンと頭をたたいてくれる宇野さん。柊翔とも違う、この優しさに、涙がこぼれてきそうになる。 「……亮平のアドレス、教えてください」  俺は、俯きながら頼んだ。  そして、あのドタバタのせいで、俺は文化祭で出す面白画像は、用意できなかった。そのせいで、実行委員の東海林には、散々叱られたけれど。3日休んだ後の、俺の顔を見たら、東海林も少しだけ、手加減してくれたみたいだった。 「鴻上先輩のおかげで、少しは肉がもどったと思ったのになぁ……お前、大丈夫か?」  いつも通りに、気にかけてくれるヤス。だけど、正直、何があったかまで話す勇気はない。ただ、ニコリと笑うだけで、俺は帰り支度を始めた。 「おい、鴻上、お迎えがきたぞ」  廊下の出入り口のそばの席にいる奴が、呼んできた。俺の視線に気づいた柊翔が、片手をあげる。 「じゃあ、ヤス、悪い、帰るわ」 「……ああ、またな」  ヤスの心配そうな顔は、変わらずで、そんな顔をさせていまってることに、少し、申し訳ない気持ちになった。 「あれから、おじさんから何か言ってきた?」  柊翔が帰りの電車の中で、ボソッと聞いてきた。 「……メールとか来てるけど、読まないで削除してる……」  読んだら、ムカツクだけだし。 「そうか」  難しそうな顔で、手元の参考書に目をやる柊翔。柊翔に余計な心配をかけたくない、とは思うけど、少しでも気にしてもらえてることに、逆に安心してしまう俺。 「そんなことより、文化祭、もうすぐですね。」 「ああ、そういえば、準備とか手伝わなくてよかったのか?俺、すっかり忘れてたけど。」 「……うん。みんなから、準備の方は無理しなくていいって言われて」 「そっか……じゃあ、当日は頑張らないとな」  ニッコリと笑ってくれた柊翔に、ようやく、俺の気分も晴れてくる。 「柊翔のほうは、よかったんですか?」 「あ?俺は前日に頑張る予定」 「そんなんでいいんですか!?」 「……いいんじゃない?」  ニッと笑う柊翔は、いたずらっ子みたいで、かわいいと思ってしまった。
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